文「森松や、彼処《あすこ》に女が居るようだなア」
森「へー雪女郎《ゆきじょうろ》じゃアありませんかえ」
文「なアに雪女郎は深山《しんざん》の雪中《せっちゅう》で、稀《まれ》に女の貌《かお》をあらわすは雪の精なるよしだが、あれは天神様へお百度でも上げているのだろう」
森「それじゃア大方縁遠いのでしょう」
文「何故え」
森「寝小便か何かして縁付く事が出来ないから、それでお百度を上げているんでしょう」
と云う中《うち》にプーッと垣際へ一《ひ》と吹雪吹き付けますると、彼《か》の娘は凍えたと見えまして、差込んで来る癪《しゃく》に、ウーンと云って胸を押えて、天神様の塀《へい》の所へ倒れましたから、
文「あれ/\女が倒れたな」
森「うっかり側へ往って尻尾《しっぽ》でも出すといけませんぜ」
文「おゝ是は冷えたと見えて、可愛そうに、何所《どこ》ぞへ往って温ためてやればいゝだろう、手前の傘をつぼめて己《おれ》の傘を差掛けろ、彼《あ》の女を抱いて往ってやろう」
森「お止しなさい、掛合《かゝりあ》いにでもなるといけませんぜ」
文「なアに捨置く訳にはいかん」
と云って力は七人力あるか
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