してあります、浮田金太夫様からのお手紙が参って居ります」
 文「じゃア全く居《お》らぬか……残念な事を致したな、大伴兄弟が居《お》ると思ったに蟠龍軒だけ築地の屋敷へ参ったか……あゝ残念な事をした」
 と云いながらプツーリと癇癪紛れに下男の首を討落《うちおと》しました。奉公人はいゝ面の皮で、悪い所へ奉公をすると此様《こん》な目に遇います。文治郎は刀をさげ、隠れて居《お》るかと戸棚《とだな》を開けたり、押入を引開けて見たが、居りません。座敷の真中《まんなか》に投《ほう》り出してありますは結構な脇差で、只《と》見ると赤銅七子に金の三羽千鳥の縁頭、はてなと取上げて見ると、鍔は金家の作、目貫は三羽千鳥、是は彼《か》のお茶の水で失ったる彦四郎貞宗ではないか、中身はと抜いて見ると紛《まご》う方なき貞宗だから、あゝ残念な事をした庄左衞門を殺害《せつがい》したのは彼等兄弟の所業《しわざ》に相違ないが、是を己が持って帰れば盗賊に陥り、言訳が付かぬ、却《かえ》って刀は此所《こゝ》に置く方が調べの手懸りにもなろうと思い、此の事を早くお町にも話したいと血《のり》を拭《ぬぐ》って鞘に納め、塀を乗越えて立帰りましたが、これから災難で此の罪が友之助に係りまして、忽《たちま》ちにお役所へ引かれますのを見て、文治郎|自《みず》から名告《なの》って出て、徒罪《とざい》を仰付《おおせつ》けられ、遂に小笠原島へ漂着致し、七ヶ年の間、無人島《むにんとう》に居りまして、後《のち》帰国の上、お町を連れて大伴蟠龍軒を討ち、舅《しゅうと》の無念を晴すと云う、文治郎漂流奇談のお話も楽《らく》でございます。
    (拠若林※[#「※」は「おうへん+甘」、256−12]藏、酒井昇造速記)



底本:「圓朝全集 巻の四」近代文芸・資料複刻叢書、世界文庫
   1963(昭和38)年9月10日発行
底本の親本:「圓朝全集 巻の四」春陽堂
   1927(昭和2)年6月28日発行
※「旧字、旧仮名で書かれた作品を、現代表記にあらためる際の作業指針」に基づいて、底本の表記をあらためました。
ただし、話芸の速記を元にした底本の特徴を残すために、繰り返し記号はそのまま用いました。
また、総ルビの底本から、振り仮名の一部を省きました。
底本中ではばらばらに用いられている、「其の」と「其」、「此の」と「此」は、それぞれ「其の」と「此の
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