申せ……お母《っか》さま、亥太郎が参りました」
母「そうかえ、まア/\此方《こちら》へ」
亥「御無沙汰致しまして、お変りもございませんで」
母「お前さんも達者で、つい此の間も噂をして居りました、さア此方《こっち》へ」
文「亥太郎さん、文治郎は大きに御無沙汰をした、少し取込んだことがあって」
亥「今、森に聞けばお嫁さんが来たって、知らねえものだから、知らせておくんなされば詰らねえ祝物《いわいもの》でも持って来なければならねえ身の上で、お祝いにも来ねえで、何《な》ぜ知らせて下さらねえ」
文「いや/\未だ内輪だけのことで」
母「只今文治の云う通り内輪だけのことで、改まって婚礼をするときは貴君方《あなたがた》にも知らせる積りでございます」
亥「だって私《わっち》は内輪でございやす、なアにこれは詰らねえものでございやす、お嫁さんにお目に懸りてい」
母「町や……年が行《ゆ》きませんから」
亥「へえ、こりゃアどうも/\そんなに長くお辞儀をなすっちゃアいけねえ、私《わっち》どもは二つずつお辞儀をしなければならねえ、こんな良《い》いお嫁さんはございませんねえ、お姫様のようだ、私《わっち》はぞんぜえ者でございやす、幾久しく願いやす」
文「御尊父様は御壮健でございますか」
亥「へえ何《なん》でごぜえやすか」
文「御尊父様は御壮健でございますか」
亥「私《わっち》の近所の医者でごぜえやすか」
文「いえ貴君《あなた》の親御《おやご》さまは」
亥「私《わっち》の親父《おやじ》ですか、些《ちっ》とも知らねえ……お芽出たい処へ来て、こんな事を云っては何《なん》ですが、親父は此の二月お芽出度《めでたく》なりました」
文「おや、さっぱり存ぜんで、お悔みにも参りません、何《な》ぜ知らせて下さらぬ」
亥「私《わっち》共のような半纒着《はんてんぎ》の処へお前《めえ》さんが黒い羽織で来ちゃア気が詰って困るからお知らせ申さねえ」
文「やれ/\御愁傷さま」
母「お前さまのような薩張《さっぱ》りした御気性だから口へはお出しなさらないが、腹の中《うち》では嘸《さぞ》御愁傷でございましょう」
亥「此方《こっち》の旦那のように親孝行をして死んだのでございません、餓鬼の中《うち》から喧嘩早《けんかっぱや》くって私《わっち》故に心配して、あんな病身になって死にました、達者な中《うち》
前へ
次へ
全161ページ中150ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
三遊亭 円朝 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング