敷様だア、紋付が能く似合う、頭の簪《かんざし》は山田屋か、損料は高《たけ》えが良《い》い物を持っているなア、これじゃアお母様《ふくろさま》の気に入らア、これから直《すぐ》に行《ゆ》きましょう」
 浪「あゝ貴嬢《あなた》そんな卑下したことを云わないで、嫁にすると云ったら嫁におなんなさいよ」
 國「手前《てめえ》一緒に行《い》きない」
 浪「わたしは衣服《きもの》も何もないもの、嫌《いや》だよ」
 國「手前《てめえ》はめかすには及ばねえ、行《い》け/\」
 これから連れて参りますと、森松は路地の処に待って居ります。
 森「兄《あに》い々々どうした、お嬢様はどうした」
 國「お嬢さまは此《こゝ》へ連れて来た」
 森「これか、こりゃアお母様《ふくろさま》に気に入らア」
 國「気に入るだろう」
 森「気に入らなければ殴る……旦那、藤原さんえ、来ましたよ」
 藤「何が」
 森「どうもその頭が」
 藤「頭が腫《は》れたか」
 森「腫れたのではありません嫁ッ御《ご》が来ましたよ」
 藤「これは/\」
 國「漸く支度が出来ました」
 藤「叔母も先程から楽《たのし》みにして待って居ります、さア此方《こっち》へ」
 浪「お初うにお目に懸りました、どうか國藏同様御贔屓を願います」
 藤「成程、これがお嫁さんで」
 國「なアに、これは私《わっち》の嚊《かゝあ》です、引込《ひっこ》んでいな」
 藤「このお嬢様、さア/\これへ/\」
 しとやかに手を突いて、
 町「お初うにお目に懸りました」
 と漸《やっ》と手を突いて挨拶をする物の云いよう裾捌《すそさば》き、この娘を飯炊きにと云っても自《おのず》から頭が下《さが》る。
 藤「ハ……お初にお目に懸りました、不思議の御縁で、どうか此の事が届けば手前に於《おい》ても満足致す、今文治の母が参られます、此の後《ご》とも御別懇に……國藏、これだけの御器量があって御膳炊きにしてくれと身を卑下した処に感服しますねえ」
 國「実にこんなお嬢さまはない、親孝行で、お父《とっ》さんのお達者の時分には八《や》ツ九ツまで肩を擦《さす》ったり足を揉んだりして、実に感心致します」
 藤「おかやや叔母に早く来るように話しな」
 か「叔母さんがお出《いで》になりました」
 文治郎の母が参りまして娘に会いますと、
 町「不束《ふつゝか》のもので何処《どこ》へ参っても御意に入《い》
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