行くだろう、処が鴨川壽仙は浅草山の宿《しゅく》へ越したから、それを知らずに早稲田まで行くと空しくなる、これから貴公が往って勧めて早稲田まで行くと夜遅くなり、お茶の水辺りへ来ると、九ツになる、其処《そこ》へ私が待合《まちあわ》せて真二《まっぷた》つにするという趣向はどうだ」
忠「是は御免を蒙《こうむ》りましょう、先生は御遺恨があるか知れませんが、私《わたくし》は遺恨はございませんから、一刀の下《もと》に斬って捨るのを心得て呼出すのは難儀でございます」
蟠「貴公が殺すのではない、私《わし》が殺すのだ」
忠「殺すのではございませんが、蛇が出た時あゝ蛇が出たと云うと、殺した奴より教えた奴に取付くと云いますから止しましょう」
蟠「そんなら廃《よ》せ、首尾|好《よ》く行《ゆ》けば、先達《せんだっ》て貴公が欲しいと云った脊割羽織《せわりばおり》と金を廿両やる積りだ」
忠「誠に有難うございます、頂戴致したいは山々でございますが、これはなんですなア」
蟠「貴公だって真面目な人間ではない、先達て友之助を賭碁で欺いたときも同意して、貴公も礼を受けていようではないか、蟠作から礼を受ければ悪人の同類だ、悪事が露顕すれば素首《すこうべ》のない人間だ、毒を喰わば皿までというから貴公も飽《あく》までやりな」
忠「やりましょう、やりましょうが、医者のことを心得ませんから」
蟠「それは教われば宜しい」
と話をしている処へ穗庵がつか/\と這入って参りました。
穗「へー今日《こんにち》は」
蟠「さア此方《こっち》へ」
穗「先刻お人でございましたが、余儀ない用事で遅くなりました…いやこれは阿部|氏《うじ》」
忠「これは久し振りでお目に懸りました、一昨日から飲過ぎて暑さに中《あた》り、寝ていて、今日《こんにち》漸《ようや》く出て参りました、今先生に聞いたが医者のことを聞かせてくれなくってはいかぬ」
穗「阿部氏は得心しましたか」
蟠「得心したから教えてくれぬではいかぬ」
穗「宜しい、眼病には内障眼と外障眼と二つあるが、小野庄左衞門のは外障眼でない、内障眼という治《じ》し難《がた》い眼病だ、僕も再度薬を盛りましたが治りません、真珠《しんじゅ》麝香《じゃこう》辰砂《しんしゃ》竜脳《りゅうのう》を蜂蜜《はちみつ》に練って付ければ宜しいが、それは金が掛るから、娘を先生の妾にくれゝば金を出
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