かた》友之助は食酔《たべよ》って前後も打忘《うちわす》れ、左様なる悪口を申したに相違ございません、友之助の不埓は文治郎なり代りましてお詫申しますが、元々お出入のことでございますから、友之助の妻《さい》お村は友之助へお返し下さるようになりましょうか」
 蟠「あゝ返しますとも、外《ほか》ならぬ文治郎殿がお出《いで》になったことだから、あいと二つ返事で返さなければならぬ、速《すみや》かにお返し申します」
 さき「誠にどうも貴方困りますね、貴方方《あなたがた》が左様《そう》仰しゃって下さると、私とお村が困ります、迷惑致します……えー文治郎さん、お前はなんぞと云うと友之助のことにひょこ/\出て来るが、どう云う縁か知りませんが、去年の暮お村を友之助に遣れというから、私は一人娘で困ると云ったら、私の胸倉《むなぐら》を取って咽喉《のど》をしめて、遣らぬと締め殺すと云ったが、何処《どこ》の国に娘の貰い引《ひき》に咽喉を締める奴がありますか、私も命が欲しいからはいと云って遣ったら、五両ずつ月々小遣を送ると嘘ばかり吐《つ》いて、何《なん》にも送りはしません、其の上友之助は大事の娘を何故|此方様《こちらさま》へ金の抵当《かた》に置いた、今私が遣るの遣らぬのと云えばお前は咽喉を締めもするだろう、弱い婆《ばゞ》ばかりなれば締めるだろうが、此処《こゝ》では締められまい、さア締めるなれば締めて見ろ、遣らぬと云ったら遣らぬ、締めるとも殺すともどうでもしなせえ」
 文「それはお母《っかあ》、遣る遣らぬは後《あと》の話、お前に相談するのではない、先生との話だからそれは後の話にして下さい」
 蟠「控えて居《お》れ、遣る遣らぬは当人同士の話にするが宜《よ》い、私《わし》は私《わし》で文治郎殿と話をする、のう文治郎殿、さアお返し申すと云ったら一時《いっとき》も待たぬ、速《すみや》かに返す、其の代り友之助の借りた金は掛合人のお前が償って返すだろうね」
 文「昨日友之助が百金返金になって居ります筈で」
 蟠「百両ではありません三百両です、これ証文箱を出せ……これに書いてある此の証文を御覧《ごろう》じろ、此の通り書いたものが物を云う、三百両と書いてありましょう」
 文「少々拝見致します」
 と文治郎は手に取って見ると、成程友之助の云う通り金の字と百の字との間に無理に押込んだ三の字が平ったくなっている、不届至極の奴と
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