うとしたが、關兼元の脇差は次の間へ置いて這入らなければなりませんが、若《も》し向うが多勢《たぜい》で乱暴を仕掛けられた時は、止《や》むを得ず腰の物を取らんければならぬ、其の時離れていては都合が悪い、それゆえ襖の蔭へ置きまして、余程|柄前《つかまえ》が此方《こっち》へ見えるようにして、若し向うで愈々《いよ/\》斬掛《きりか》けるようなる事があると、坐ったなりでずうっと下《さが》り、一刀を取って抜こうと云う真影流の坐り試合、油断をしませんで襖の所へ置いて掛合うという危険《けんのん》な掛合でございます。
 文「只今申上げました紀伊國屋友之助は図らずも御当家へお出入になりましたことは此度《こんど》始めて承わりましたが、不思議の縁で昨年来よりして手前|店請《たなうけ》になって駒形へ店を出させました廉《かど》もございましたが、久しく音信《いんしん》もございません、銀座へ越します時も頓《とん》と無沙汰で越しました、然《しか》る処、昨夜吾妻橋を通り掛りますると、友之助が吾妻橋の中央より身を投げようと致す様子、狂気の如く相成って居ります故、引留《ひきと》めて仔細を聞くと、御当家様へお出入になり、長らく御贔屓《ごひいき》を戴き先月御当家様で金子百両借用致して、其の証文|表《おもて》に金子滞る時は女房お村を妾に差上げると云うことが書いてあり、金子の返金滞ったによって女房お村をお取上《とりあげ》になってお返しがない、それ故に驚き、金子才覚して持って参りました所が、金子もお村もお取上で、お返しならぬ上御打擲になり、剰《あまつさ》え御門弟|衆《しゅ》が髻《もとゞり》を取って門外へ引出し、打ち打擲して割下水へ倒《さか》さまに投入《なげい》れられ、半死半生にされても此方《こっち》は町人、相手は剣術の先生で手向いは出来ず、如何《いか》にも残念だから入水《じゅすい》してお村を取殺《とりころ》すなどと狂気《きちがい》じみたことを申し……それはまア怪《け》しからぬこと、音に聞えたる大伴の先生故、町人を打ち打擲などをすることはない筈《はず》、又女房を金の抵当《かた》に取るなどと端《はした》ないことはなさる筈がない、そんなことは下々《しも/″\》ですること、先生はよもや御得心のことではあるまい、何か頓と分りませんから、一応先生に承わって当人へ篤《とく》と意見を申し聞かせまする了簡で罷り出ました、えい友之助の悪
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