から七所借《なゝとこがり》をして金を持って参り、突き付けまして、お村を返せと云うと、旦那様、お崎|婆《ばゞあ》も大伴へ参って居ります、其の上お村がお前のような意気地《いくじ》なしの女房になるのは厭だと云い、婆《ばゞあ》は手前には娘を遣らぬと申し、皆向うへ附いて口惜しゅうございますから、お村に文治郎様に義理が済むまいと申しますと、お村とはなんだ、お村様と云え、様を附けろと云うから、糞《くそ》でも喰《くら》え、それじゃア騙りだと云うと、私《わたくし》の頭を鉄扇で打ち、門弟が髻《たぶさ》を取って引摺り出し、打ち打擲するのみならず、割下水へ倒《さか》さまに突込《つきこ》まれて私《わたくし》は半分死んで居ります」
 文「憎い奴だなア」
 友「憎いって憎くねえって、森松さん可愛そうと思って下さい」
 森「酷《ひど》い奴で、彼奴《あいつ》は悪党でげすな、旦那」
 文「ふーん、それで百両返しにいって其の百両はどうなった」
 友[#「友」は底本では「文」と誤記]「百両借りた証文が三百両となりました、百と云う字と金の字の間へ三の字を平ったく書いたのですから、騙りと云うのは当然《あたりまえ》でげしょう」
 文「其の金はどうした」
 友「其の金は其処《そこ》へ置いて掛合ったので」
 文「持って帰ったか」
 友「掛合中に突然《いきなり》に引摺り出されたから目の前にあっても取る事は出来ません」
 文「成程、至極尤もだ、友さん如何《いか》にもお前は善人だ、金と女房を取られた上に打《ぶ》たれて気の毒千万だ、私は母に誡《いまし》められて喧嘩の中へ這入《はい》ることは出来ません、素《もと》より人の掛合に頼まれることはせぬ積りだが、どう云う訳か去年の暮から別懇になったからして如何にも気の毒だから、私が往《い》って百両の金だけは取返して上げまいものでもないが、女房お村の取返しは御免だ、其の位企みをして妾にしようとするお村を取返さんとすれば面倒になり、どのようなる理不尽なことをするか知れぬ、其の時は引くに退《ひ》かれぬ場合になる故に、お村を取返すことは私《わし》は頼まれぬ、お村は諦めな、あれはいかぬ、お前の為にならぬ女だ、あれが了簡の不実なのは見抜いて知っている」
 友「旦那様、そう仰しゃいますが、私《わたくし》はあれは諦らめられません、私《わたし》は彼奴《あいつ》故主人を失策《しくじ》り、友達には笑われ、
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