に云うと、文治郎も心配しても外《ほか》に仕方がないから、お母様《っかさま》には上州前橋の松屋新兵衞が来て逢いたいから吾妻橋の海老屋で待っているとお母様に言ってくれと、こしらえ事ではありますが、人の為と思い、母に話しますると、外の者では遣《や》らぬが、松屋さんなら逢ってくるが宜《よ》いと云うので、森松と同道で都鳥と云う茶店へ来て、
 森「爺さんいるかえ」
 爺「居《お》ります、時々縁台から下りまして川を覗《のぞ》いて居ります」
 森「心配《しんぺい》はねえ、旦那が来たから」
 爺「御苦労様、お医者様ですか」
 森「お医者様じゃねえ……旦那|此方《こっち》へ」
 文「友さん、大分《だいぶ》面部へ疵《きず》を受けたねえ、どうした、確《しっ》かりしなくてはいかぬ、身を投げて死ぬなどとそんな小さい根性を出してはいかぬ、どう云う訳か、心を落付けて話しなさい」
 森[#「森」は底本では「友」と誤記]「旦那が来たよ、話しねえ」
 友「へゝ有難う、誰が来ても私は半分死んで居ります」
 森「あんなことを先刻《さっき》から云うので分りません、確《しっか》りしねえ、旦那だよ」
 文「私《わし》だが分るかえ」
 友「へー、お村様と云いますから、お村のお母《ふくろ》まで向うに附いているので、へー」
 森「これは仕様がねえな、旦那が分らねえか」
 文「友さん、私《わし》が分りませんか、業平橋の文治郎だが分りませんか」
 友「へー/\旦那で、有難い/\能く来て下さいました、旦那様|口惜《くやしゅ》うございます、何《ど》うか讎《かたき》を討って下さい、私は半分死んで居ります」
 文「まア気を落付けなさい、嘸《さぞ》残念であろうが、何《ど》う云う訳でお前は酷《ひど》い目に遇《あ》ったか仔細を云いなさい」
 友「へい、私はね旦那様あなたより外《ほか》に讎《かたき》を取って戴く方はございません、貴方の処へ参りたいと思いましても、此の二月貴方に一言《いちごん》のお話もしませんで銀座三丁目へ越し、つい敷居が高くなり御無沙汰になりましたが、是れも皆お村の畜生が悪いからで、何卒《どうぞ》御勘弁なすって下さい」
 文「まア無沙汰の詫事《わびごと》はどうでも宜《よ》いが、お村はどうした」
 友「へい、お村は向うへ取られ、金も百両取られました上で打《ぶ》たれました」
 文「女房と金を取られて打擲されるとはお前に何か悪い
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