一日でございます。店開きを致して僅《わず》か十日ばかり経《た》つ中《うち》に、友之助は店に坐って商いをして居ります。袋物店《ふくろものみせ》でございまして、間口は狭くも良い代物《しろもの》があります。おむらは台所廻り炊事《かしぎ》の業《わざ》などをいたして居ります。ふと通り掛った武士、黒羅紗《くろらしゃ》の山岡頭巾《やまおかずきん》を目深《まぶか》に冠《かぶ》り、どっしりとしたお羽織を着、金造《きんづく》りの大小で、紺足袋に雪駄《せった》を穿《は》き、今|一人《いちにん》は黒の羽織に小袖を着て、お納戸献上《なんどけんじょう》の帯をしめて、余り性《しょう》は宜しくないと見えて、何か懐中へ物を入れて居《お》ると帯が皺くちゃになって、掛《かけ》は頂垂《うなだ》れて、雪駄穿《せったばき》と云うと体《てい》は良いが、日勤草履《にっきんぞうり》で金《かね》が取れ、鼠の小倉《こくら》の鼻緒が切れて、雪駄の間から経木《きょうぎ》などが出るのを、踵《かゝと》でしめながら歩くという剣呑《けんのん》な雪駄です。微酔《ほろよい》機嫌で赤い顔をして友之助の店先へ立ち、
士「こう阿部氏《あべうじ》、大分《だいぶ》この袋物屋には良い品がある様だ」
阿「左様でげすか、貴方は今迄のお出入がありながらお好《すき》だから良い店へ立寄ると買い度《たく》なりますと見えますね」
士「妙なもので丁度婦人が小間物屋の店へ立った様なものだ」
阿「良い物がありますかね」
士「これ/\亭主、其の袂持《たもともち》の莨入《たばこいれ》を見せろ」
友「まアお掛け遊ばせ、好《よ》いお天気様で、エー新店《しんみせ》の事で、エー働きますが御贔屓《ごひいき》を願います」
士「あゝ、草臥《くたびれ》たから少し腰を掛けさせてくれ…其の金襴《きんらん》の莨入を遣物《つかいもの》にしたいと思うが見せろ」
友「へい/\/\御進物にはこれは飛んだお見附《みつき》も宜しく、出した処も宜しゅうございます、この方は二段口になって、これは更紗形《さらさがた》で、表は印伝になって居りますから」
士「大分良い物がある……阿部氏何んぞ買わぬか」
阿「どうもいけません……手前煙草がいけませんから欲しくございません……御亭主大層良い品があるね」
友「どうも品物が揃《そろ》いませんで……これお茶を上げなよ」
むら「はい」
と奥から出まし
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