《っか》さん食べておくんなせい、お願いだ、旦那も心配していらア、旦那だって喧嘩はしたくはねえが拠《よんどころ》なく頼まれて人を助けるのだから、まア堪忍して食《く》っておくんねえ」
母「なんの、手前まで喧嘩があると悦んで飛出す癖に、其方《そっち》へ行《ゆ》け」
森「お母さん、じれちゃアいけませんよ」
母「手前の知ったことではない」
と叱られて、文治郎と一緒に次の間へ来まして、
森「どうしたのでござえますね」
文「はて私《わし》を仕置《しおき》のため御膳をあがらんのだわ」
森「へえ変ですねえ、仕置にお飯《まんま》を喰わせねえというのは聞きやしたが、自分の方で喰わねえのは妙だねえ」
文「お母さまは茶椀蒸がお好《すき》だが、いつでも、料理屋で拵《こしら》えたのよりは、文治郎の拵えたのが宜しいと仰ゃって喰《あが》るから、蒸《むし》を拵えましょう…蒲焼《かばやき》の小串《こぐし》の柔かいのと蒲鉾《かまぼこ》の宜しいのを取ってこい、御膳は私《わし》がといで炊くから」
とこれから文治郎自分で料理をして膳を持って障子を開け、
文「お母様、先程の御一言は文治郎の心魂に銘じました、御一命を捨てゝの御意見|何《なん》とも申そう様ござらぬ、此の後《ご》は慎みますから何卒《どうぞ》御勘弁遊ばして召上って下さいまし、三日も召上らんから大分《だいぶ》お窶《やつ》れも見えまして誠に心配致します、文治郎手づから茶椀蒸を拵え、御飯も自分で炊きましたから、何卒召上って下さいまし、お母さま、これからは決してお側を離れません、何卒御勘弁を」
と文治郎涙を浮べ茶椀蒸の蓋《ふた》を取って恐る/\母の前へ窃《そ》っと差出しました。
母「喰《た》べんと云うのに何故面前へ膳を突附《つきつ》けたのじゃ、手前は母へ逆らうか、喰べんと云ったら喰べやアしません、其方《そっち》へ持って行《ゆ》け」
と云いながらポーンと膳を片手で突きましたから、膳は転覆《ひっくりかえ》る、茶椀蒸は溢《こぼ》れる。
文「これ/\森松や雑巾《ぞうきん》を持ってこい」
森「へえこれは大変々々、お母さん堪忍して食っておくんなせい、旦那がお前さんに喰《た》べさせていと云って拵えたのだ、食わなければ食わないで宜しいじゃアねえか、私《わっち》が食いやす、斯《こ》うやって旦那が詫るのだから好加減《いゝかげん》に勘忍しておくんねえ、親
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