廉《かど》を以《もっ》て捨置き難《がた》く手打に致したと、手前引受けて訴え出《い》で、あなたのお名前はこればかりも出しません、誠に善く殺して下さいました、忝けない」
と女房を殺した人に礼を云って居りますから、母は気の毒に思い、五十両の金を内済として贈ると、喜代之助はどうしても受けませんで、
喜「どうして私《わたくし》の為に命を掛けて助けて下すったに、金子を戴く訳はありません、実に文治郎殿の気性には手前感服致した、此の様《よう》なる方と御懇意にしたら此方《こっち》の曲った心も直ろうと思いますから、以後御別懇に願いたい、就《つい》ては母も老体で私《わたくし》が内職に行《ゆ》くことが出来ませんから、文治郎殿の鑑識《めがね》に適《かな》った女房を世話をして下さい、成るべくお親戚《みより》なれば尚更忝けない」
との頼みに文治郎も捨置かれませんから、母の姪《めい》のおかやと云う年二十六になる、器量は余り宜しくないが屋敷育ちで人柄な心掛のよい女を嫁にやろうと云うと、喜代之助は大きに喜びまして、何しろおあさを殺したことを届けようと云うので届出ますと、岡ッ引《ぴき》御用聞などが段々探索になりましたなれども、彼《あ》の女は元より母親に食物を与えず、不孝邪慳の女で悪い者だということが明白になったから、何事もなく相済み、おあさの死骸《しがい》は野辺の送りを済ませた上で、文治郎の母は内済金五十両をおかやの持参金として贈りましたから、以前と違っておかやは母親を大切に致しますから、喜代之助は喜び、夫婦|中睦《なかむつま》しく、倶《とも》に文治郎の宅へ出入りをするようになりました。すると何《ど》う云う訳か文治郎の母がお飯《まんま》を食べなくなりましたから、文治もこれには驚きまして、
文「これ森松」
森「へい」
文「お母様《っかさま》は御膳を食《あが》らんではないか」
森「へー喰いませんよ」
文「喰いませんよではない、昨日《きのう》も食べないではないか」
森「一昨日《おとゝい》も喰いません」
文「何故三日も食《あが》らんのに私《わし》に知らせん」
森「それでも喰いたくねえって」
文「馬鹿を云え、三日も食《あが》らずに居《お》られるものか、お加減が悪いのだから医者を呼ばなければならん、医者を呼んで来い」
森「何《なん》だか腹が充《くち》いって」
文「三日も召上らんでは困りま
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