あ「あら髪なんぞを結って来るんだものを」
 森「なアに家《うち》を出る時髪を結って来ると云って出ねえと極りが悪いから」
 あ「気にも入るまいが色か何かの積りで緩《ゆっ》くり飲んでおくれな」
 森「大層お肴がありやすねえ」
 あ「さアお喫《あが》りよ」
 森「戴きやす、御新造《ごしんぞ》のお酌で酒を飲むなんて勿体《もってえ》ねえことです、えーどうも旨いねえ」
 あ「ちょいと種々《いろ/\》森さんのお世話になり、買物をするにも勝手が知れないから聞くと、私が買って上げようと云ってお世話になるから、何か買って上げようと思ったが、宅《うち》へ知れると年寄に訝《おか》しく思われるから思うようにいけないが、これは少しだがお前さんに上げるから」
 森「こんな事をなすっちゃアいけませんよ」
 あ「ちょいと私が、お前さんに袷《あわせ》の表を上げたいと思って持って来たよ、じゃがらっぽいがねえ銘仙《めいせん》だよ、ぼつ/\して穢《きたな》らしいけれども着ておくれでないか」
 森「戴く物は夏もお小袖と云うから結構でござえやす」
 あ「斯うしよう、お前の着物の寸法を書いておよこし、良人《うち》の留守の時縫って上げよう」
 森「こりゃア有難い、これはどうもお前さんのような御気性な人はねえや、ちょくで人を逸《そら》さないようにして…あなたの所《とこ》の旦那はお堅うござえやすねえ」
 あ「屋敷者だもの、だから不意気《ぶいき》だよ」
 森「朝ね、黒い羽織を着て出る時、何時《いつ》も路地で逢うから、旦那お早うと云うと、好《い》い天気でござるなんかんて云うが、あんな堅い方はありません、一杯戴きやしょう、好い酒だ、私《わっち》アね何時でも宅《うち》を出る時、極りが悪いからちょっと往って来《き》やすよと云うと、旦那ア知ってるから森やア酔わねえように飲めよと云われるが、宅じゃア気が詰って飲めねえし、どうも酔えねえようには出来ねえが、宅の旦那は妙ですねえ…どうも有難うござえやす」
 あ「私《わたし》アあねえ気が合わないから宅《うち》の藤原と別れ話にして、独り暮しになるからちょく/\遊びに来ておくれよ」
 森「へー往《ゆ》くくらいじゃア有りやせん、へえ別れるねえ」
 あ「別れると宅《うち》のも屋敷へ帰るし、私もいゝから別れようと思うのさ」
 森「成程気が合わねえ、へえ成程、へえお前さんが独りになればポカ/\遊
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