かた》りをして衆人を苦しめると云う事は予《かね》て聞いて居《お》ったが、此の文治郎が本所に居《お》る中《うち》は捨置《すてお》く訳にはいかん、それに此の文治の事を青二才などと云おうようなき悪口《あっこう》を申したな、手前のような奴を活《い》かして置いては大勢の人の難儀になるから打殺《ぶちころ》すのであるが、女の事ゆえ助けてやる、早く家《うち》へ帰って亭主の國藏という奴に、己《おれ》は業平橋に居る浪島文治郎と云うものだから、打《ぶ》たれたのを残念と思うならいつでも仕返しに来いと屹《きっ》と申せよ」
と云いながらトーンと障子を明けて、表へ突き出したから、お浪は倒れて眼が眩《くら》みましたが、漸《ようや》くの事で這《は》うようにして家《うち》へ帰って、國藏に此の事を話そうと思うと、其の晩は帰りませんで、翌日の昼時分に帰って来まして、
國「お浪今|帰《けえ》ったよ、寝てえちゃアいけねえ、火も何も消えて居るじゃアねえか」
浪「起きられやしねえよ、頭が割れそうだア」
國「なんだ頭が割れそうだ、頭が痛けりゃア按摩《あんま》でも呼んで揉《も》んで貰いねえナ」
浪「拳骨《げんこつ》で廿ばかり打《ぶ》たれたよ」
國「なに打たれて黙って帰《けえ》って来るような手前《てめえ》じゃアねえじゃねえか、何奴《どいつ》が打ったのだ」
浪「夕べお前が帰《けえ》って来たらば直《す》ぐに仕返《しけえ》しに行こうと思っていたが、いつでも杉の湯に来る奴が来たから、お前《めえ》に教わった通りにして、向うへ強請に往《い》こうと思うと、業平橋にいる文治と云う奴が来て、突然《いきなり》に私を打って、打殺して仕舞《しまう》んだが助けてやるから家《うち》へ帰《けえ》って亭主の國藏と云う奴に云って、いつでも仕返《しけえ》しに来いと云って、人を蚰蜒《げじ/\》見たように摘《つま》み出しゃアがったよ、悔しくって/\仕様がねえから、仕返しに往っておくれよ」
國「静かにしろい、業平文治と云う奴は黒い羽織を着ている奴だな、結構だ」
浪「何が結構だ」
國「寒さの取付《とっつ》きに立派な人に打《ぶ》たれて仕合せよ、悪い跡はいゝやい」
と云いながら落着き払って出て行《ゆ》きましたが、何処《どこ》で買ったか膏薬《こうやく》を買って来まして、お浪の身体へベタ/\と打《ぶ》たれもしない手や何かへも貼付け、四つ手《で》駕籠
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