ん。○「何《ど》ういたしましてお蔭様《かげさま》で助かりましてございます。女「そこに木《き》の葉《は》がありますよ、焚付《たきつけ》がありますから。囲炉裡《ゐろり》の中《なか》に枯木《かれき》を入《い》れフーツと吹《ふ》くとどつと燃《も》え上《あが》りました。その火の光りでこゝに居《を》ります女を見ると、年頃《としごろ》は三十二三|服装《なり》は茶弁慶《ちやべんけい》の上田《うへだ》の薄《うす》い褞袍《どてら》を被《き》て居《を》りまして、頭髪《つむり》は結髪《むすびがみ》でございまして、目《め》もとに愛嬌《あいけう》のある仇《あだ》めいた女ですが、何《ど》うしたことか咽喉《のど》から頬《ほゝ》へかけて突《つ》いた様《やう》な傷《きず》がございます。女「そこへ草鞋《わらぢ》を踏込《ふみこ》んでお当《あた》んなさいまし。○「有難《ありがた》うございます……お内儀《かみ》さんえ、間違《まちが》つたら御免《ごめん》なすつて下さいまし、人違《ひとちが》ひと云《い》ふことはございますから、あなたはお言葉の御様子《ごやうす》では此《こ》の鰍沢《かじかざは》のお生《うま》れではないやうでございますな。女「さうですよ、江戸《えど》で生《うま》れたんですよ。○「江戸《えど》は何《ど》の辺《へん》でございますか。女「生《うま》れは日本橋《にほんばし》の近所ですが観音様《くわんおんさま》のうしろに長い間ゐたことがありますよ。○「へえ観音様《くわんおんさま》のうしろに……あなたは吉原《よしはら》の熊蔵丸屋《くまざうまるや》の月の戸《と》華魁《おいらん》ぢやアございませんか。女「おや何《ど》うしてわたしを御存知《ごぞんぢ》です。男「華魁《おいらん》ですかどうもまことにお見受《みう》け申《まう》したお方《かた》だと存《ぞん》じましたが、只今《たゞいま》はお一人ですか。女「いえ配偶者《つれあひ》があるんですよ。男「左様《さやう》でございますか、私《わたし》は久《ひさ》しい以前《いぜん》二の酉《とり》の時に一人《ひとり》伴《つれ》があつて丸屋《まるや》に上《あが》り、あなたが出て下《くだ》すつて親切にして下《くだ》すつた、翌年《よくねん》のやはり二の酉《とり》の時に久《ひさ》し振《ぶ》りで丸屋《まるや》へ上《あが》ると、あなたは情死《しんぢゆう》なすつたと云《い》ふことで、あゝ飛んだことをした、い
前へ
次へ
全8ページ中2ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
三遊亭 円朝 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング