《に》げようとしたが毒がまはつて躯《からだ》が自由になりません。○「太い女だ、ひどい奴《やつ》があるもんだ、どうかしてもう一度|江戸《えど》の土《つち》を踏《ふ》み、女房《にようばう》子《こ》に会《あ》つて死にたいものだ、お祖師様《そしさま》の罰《ばち》でも当《あた》つたのかしら。逃《に》げ様《やう》として躯《からだ》を戸《と》に当《あ》てたから外《はづ》れると戸《と》と共《とも》に庭にころがり落ちたが、○「南無妙法蓮華経《なむめうほふれんげきやう》、妙法蓮華経《めうほふれんげきやう》。とお題目《だいもく》を唱《とな》へながら雪の中に這《は》ひました。その時つい気のついたは小《こ》むろ山《さん》から頂《いたゞ》いて来《き》た毒消《どくけし》の御封《ごふう》、これ幸《さいは》ひと懐中《ふところ》に手を入れましたが包《つゝ》みのまゝ口へ入《い》れて雪をつかんで入《い》れて呑《の》みましたが、毒消《どくけし》の御利益《ごりやく》か、いゝあんばいに躯《からだ》が利《き》いて来《き》ました、斯《か》うなると慾《よく》が出てまた上《あが》つて包《つゝみ》を斜《はす》に背負《せお》ひ道中差《だうちゆうざし》をさして逃《に》げ出しました。女「野郎《やらう》気《き》がついたな、鉄砲《てつぱう》で射殺《ぶちころ》してしまふ。これを聞いていよ/\驚《おどろ》き雪《ゆき》の中《なか》を逃《に》げたがあとからおくまは火縄筒《ひなはづゝ》を持つて追つて来ます。旅の人はうしろをふり向くとチラ/\火が見える。前《まへ》は東海道《とうかいだう》岩淵《いはぶち》へ落《おと》す急流《きふりう》、しかもこゝは釜《かま》が淵《ふち》と申《まう》す難所《なんじよ》でございます。お祖師《そし》が身延《みのぶ》へ参詣《さんけい》に来《き》ても鰍沢《かじかざは》の舟には乗るなとおつしやつた、しかしこゝより外《ほか》に遁《のが》れるところはない鉄砲《てつぱう》で射《ぶ》ち殺されるかそれとも助かるか一かばちか○「南無妙法蓮華経《なむめうほふれんげきやう》」とお題目《だいもく》をとなへながら流れをのぞんで飛び込みました。下につないであつた山筏《やまいかだ》の上へ落ちると、佩《さ》してゐた道中差《だうちゆうざし》がスルリと鞘走《さやばし》つて、それが筏《いかだ》を繋《もや》つた綱《つな》にふれるとプツリと切れて筏《いかだ》
前へ 次へ
全8ページ中6ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
三遊亭 円朝 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング