、誰だ、明けてお入《はい》り、履物《はきもの》を其処《そこ》へ置くと盗まれるといけないから持ってお上《あが》り」
孝「はい、御免下さいまし」
 と云いながら障子を明けて中《うち》へ通ると、六畳ばかりの狭い所に、真黒《まっくろ》になった今戸焼《いまどやき》の火鉢の上に口のかけた土瓶《どびん》をかけ、茶碗が転がっている。脇の方に小さい机を前に置き、其の上に易書《えきしょ》を五六冊積上げ、傍《かたえ》の筆立《ふでたて》には短かき筮竹《ぜいちく》を立て、其の前に丸い小さな硯《すゞり》を置き、勇齋はぼんやりと机の前に座しました態《さま》は、名人かは知らないが、少しも山も飾りもない。じゞむさくしている故、名人らしい事は更になけれども、孝助は予《か》ねて良石和尚の教えもあればと思って両手を突き、
孝「白翁堂勇齋先生は貴方様《あなたさま》でございますか」
白「はい、始めましてお目にかゝります、勇齋は私だよ、今年はもう七十だ」
孝「それは誠に御壮健な事で」
白「まア/\達者でございます、お前は見て貰いにでも来たのか」
孝「へい手前は谷中新幡随院の良石和尚よりのお指図《さしず》で参りましたものでございます
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