お粥《かゆ》を二膳半食べました、それから今日はナ娘がずっと気分が癒《なお》って、お父様こんなに見苦しい形《なり》でいては、孝助さまに愛想《あいそう》を尽かされるといけませんからというので、化粧をする、婆アもお鉄漿《はぐろ》を附けるやら大変です、私《わたくし》も最早《もはや》五十五歳ゆえ早く養子をして楽がしたいものですから、誠に耻入った次第でございますが、早速《さっそく》のお聞済《きゝず》み、誠に有難う存じます」
飯「あれから孝助に話しましたところ、当人も大層に悦び、私《わたくし》の様な不束者《ふつゝかもの》をそれ程までに思召《おぼしめ》し下さるとは冥加至極《みょうがしごく》と申してナ、大概《あらかた》当人も得心いたした様子でな」
相「いやもう、あの人は忠義だから否《いや》でも殿様の仰しゃる事なら唯《はい》と云って言う事を聞きます、あの位な忠義な人はない、旗下《はたもと》八万騎の多い中にも恐らくはあの位な者は一人もありますまい、娘がそれを見込みましたのだ、善藏はまだ帰らないか、これ婆ア」
婆「なんでございます」
相「殿様に御挨拶をしないか」
婆「御挨拶をしようと思っても、貴方《あなた》がせか/\している者だから御挨拶する間《ま》もありはしません、殿様、御機嫌|様《さま》よう入《いら》っしゃいました」
飯「これは婆《ばあ》やア、お徳様が長い間《あいだ》御病気の所、早速の御全快誠にお目でたい、お前も心配したろう」
婆「お蔭様《かげさま》で、私《わたくし》はお嬢様のお少《ちい》さい時分からお側にいて、お気性も知って居りますのに何《なん》とも仰しゃらず、漸《やっ》と此の間分ったので殿様に御苦労をかけました、誠に有がとうございます」
相「善藏はまだ帰らないか、長いなア、お菓子を持って来い、殿様御案内の通り手狭でございますから、何かちょっと尾頭附《おかしらつき》で一|献《こん》差上げたいが、まアお聞き下さい、此の通り手狭ですからお座敷を別にする事も出来ませんから、孝助殿も此処《こゝ》へ一緒にいたし、今日は無礼講《ぶれいこう》で御家来でなく、どうか御同席で御酒《ごしゅ》を上げたい、孝助は私《わたくし》が出迎えます」
飯「なに私《わたくし》が呼びましょう」
相「ナアニあれは私《わたくし》の大事な聟で、死水《しにみず》を取ってもらう大事な養子だから」
と立上《たちあが》り、玄関まで出
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