命にかゝわる事ですから口外する気遣《きづか》いはありません、それから貴方はお邸《やしき》へお帰りになって、知らん顔でいて、お兄様《あにいさま》に隣家《となり》では家督《かとく》がないから早く養子に遣《や》ってくれ/\と仰しゃれば、此方《こなた》は別に御親類もないからお頭《かしら》に話を致し、貴方を御養子のお届けを致しますまでは、殿様は御病気の届けを致して置いて、貴方の家督相続が済みましてから、殿様の死去のお届を致せば、貴方は此家《こちら》の御養子様、そうすると私《わたくし》は何時《いつ》までも貴方の側に粘《へば》り附いていて動きません、此方《こちら》の家《うち》は貴方のお家より、余程《よっぽど》大尽《だいじん》ですから、召物《めしもの》でもお腰のものでも結構なのが沢山ありますよ」
源「これは旨い趣向だ、考えたね」
國「私《わたくし》は三日三晩寝ずに考えましたよ」
源「是は至極《しごく》宜《よろ》しい、どうも宜しい」
と源次郎は慾張《よくばり》と助平《すけべい》とが合併して乗気《のりき》に成り、両人がひそ/\語り合っているを、忠義無類の孝助という草履取が、御門《ごもん》の男部屋に紙帳《しちょう》を吊って寝て見たが、何分にも熱くって寝付かれないものだから、渋団扇《しぶうちわ》を持って、
「どうも今年の様に熱い事はありゃアしない」
と云いながら、お庭をぶら/″\歩いていると、板塀《いたべい》の三|尺《じゃく》の開《ひら》きがバタリ/\と風にあおられているのを見て、
孝「締りをして置いたのに何《ど》うして開《あ》いたのだろう、おや庭下駄が並べてあるぞ、誰《だれ》が来たな、隣家《となり》の次男めがお國さんと様子が訝《おか》しいから、ことによったら密通《くッつ》いているのかも知れん」
と抜足《ぬきあし》してそっと此方《こなた》へまいり、沓脱石《くつぬぎいし》へ手を支えて座敷の様子を窺《うかゞ》うと、自分が命を捨てゝも奉公をいたそうと思っている殿様を殺すという相談に、孝助は大《おお》いに怒《いか》り、歳《とし》はまだ二十一でございますが、負けない気性だから、怒りの余り思わず知らずガッと鼻を鳴らす。
源「お國さん誰《たれ》か来たようだよ」
國「貴方《あなた》は本当に臆病《おくびょう》で入らっしゃるよ、誰《たれ》も参りは致しません」
と耳を立てゝ聞けば人の居る様子ですから、
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