半ぐらいの御膳が上《あが》れんとは、私《わたくし》などは親椀《おやわん》で山盛りにして五六杯も喰わなくっちゃアちっとも物を食べたような気持が致しやせん、あなた様はちっとも外出《そとで》をなさいませんな、此の二月でしたっけナ、山本さんと御一緒に梅見にお出掛けに成って、何か洒落《しゃれ》をおっしゃいましたっけナ、ちっと御保養をなさいませんと本当に毒ですよ」
新「伴藏貴様はあの釣《つり》が好きだっけな」
伴「へい釣は好きのなんのッて、本当にお飯《まんま》より好きでございます」
新「左様か、そうならば一緒に釣に出掛けようかのう」
伴「あなたは慥《たし》か釣はお嫌いではありませんか」
新「何《なん》だか急にむか/\と釣が好きになったよ」
伴「へい、むか/\とお好きに成って、そして何方《どちら》へ釣にいらっしゃるお積りで」
新「そうサ、柳島の横川で大層釣れるというから彼処《あすこ》へ往《ゆ》こうか」
伴「横川というのは彼《あ》の中川へ出る処《ところ》ですかえ、そうしてあんな処で何が釣れますえ」
新「大きな鰹《かつお》が釣れるとよ」
伴「馬鹿な事を仰《おっ》しゃい、川で鰹が釣れますものかね、たか/″\鰡《いな》か※[#「魚+節」、27−14]《たなご》ぐらいのものでございましょう、兎も角もいらっしゃるならばお供をいたしましょう」
と弁当の用意を致し、酒を吸筒《すいづゝ》へ詰込みまして、神田の昌平橋《しょうへいばし》の船宿から漁夫《りょうし》を雇い乗出《のりだ》しましたれど、新三郎は釣はしたくはないが、唯《たゞ》飯島の別荘のお嬢の様子を垣の外からなりとも見ましょうとの心組《こゝろぐみ》でございますから、新三郎は持って来た吸筒の酒にグッスリと酔って、船の中で寝込んでしまいましたが、伴藏は一人で日の暮《くれ》るまで釣を致して居ましたが、新三郎が寝たようだから、
伴「旦那え/\お風をひきますよ、五月頃は兎角冷えますから、旦那え/\、是は余りお酒を勧めすぎたかな」
新三郎はふと見ると横川のようだから。
新「伴藏こゝは何処《どこ》だ」
伴「へい此処《こゝ》は横川です」
と云われて傍《かたえ》の岸辺を見ますと、二重の建仁寺《けんにんじ》の垣に潜《くゞ》り門がありましたが、是は確《たしか》に飯島の別荘と思い、
新「伴藏や一寸《ちょっと》此処《こゝ》へ着けて呉れ、一寸行って来る所があるから」
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