いって大分《だいぶ》評判がよく、皆の受《うけ》がよいぞ、年頃は二十一二と見えるが、人品《ひとがら》といい男ぶりといい草履取には惜しいものだな」
孝「殿様には此の間中《あいだじゅう》御不快でございましたそうで、お案じ申上げましたが、さしたる事もございませんか」
平「おゝよく尋ねて呉れた、別にさしたる事もないが、して手前は今まで何方《いずかた》へか奉公をした事があったか」
孝「へい只今まで方々奉公も致しました、先《ま》ず一番先に四谷《よツや》の金物商《かなものや》へ参りましたが一年程居りまして駈出《かけだ》しました、それから新橋《しんばし》の鍜冶屋《かじや》へ参り、三|月《つき》程過ぎて駈出し、又|仲通《なかどお》りの絵草紙屋《えぞうしや》へ参りましたが、十|日《か》で駈出しました」
平「其の方のようにそう厭《あ》きては奉公は出来ないぞ」
孝「いえ私《わたくし》が倦《あ》きっぽいのではございませんが、私はどうぞして武家奉公が致したいと思い、其の訳を叔父に頼みましても、叔父は武家奉公は面倒だから町家《ちょうか》へ往《ゆ》けと申しまして彼方此方《あちらこちら》奉公にやりますから、私も面当《つらあて》に駈出してやりました」
平「其の方は窮屈な武家奉公をしたいというのは如何《いかゞ》な訳じゃ」
孝「へい、私《わたくし》は武家奉公を致しお剣術を覚えたいのでへい」
平「はて剣術が好きとな」
孝「へい番町《ばんちょう》の栗橋《くりはし》様が御当家様《こちらさま》は、真影流《しんかげりゅう》の御名人《ごめいじん》と承わりました故、何《ど》うぞして御両家の内へ御奉公に上《あが》りたいと思いましていました処《ところ》、漸々《よう/\》の思いで御当家様《こちらさま》へお召抱《めしかゝ》えに相成り、念が届いて有難うございます、どうぞお殿様のお暇《ひま》の節には、少々ずつにてもお稽古が願われようかと存じまして参りました、御当家様《こちらさま》に若様でも入《いら》っしゃいます事ならば、若様のお守《もり》をしながら皆様がお稽古を遊ばすのをお側で拝見致していましても、型ぐらいは覚えられましょうと存じましたに、若様はいらっしゃらず、お嬢様には柳島の御別荘にいらっしゃいまして、お年はお十七とのこと、これが若様なれば余程《よっぽど》宜《よろ》しゅうございますに、お武家様にお嬢様は糞《くそ》ったれでございます
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