御家来かと聞くから、まア/\家来同様な訳でごぜえますというと、萩原様はあんまりなお方でございます、お嬢様が萩原様に恋焦《こいこが》れて、今夜いらっしゃいと慥《たしか》にお約束を遊ばしたのに、今はお嬢様をお嫌いなすって、入《い》れないようになさいますとは余《あんま》りなお方でございます、裏の小さい窓に御札が貼《は》ってあるので、どうしても這入《はい》ることが出来ませんから、お情《なさけ》に其の御札を剥《はが》してくださいましというから、明日《あした》屹度《きっと》剥して置きましょう、明晩《みょうばん》屹度お願い申しますと云ってずっと帰《けえ》った、それから昨日《きのう》は終日《いちにち》畠耘《はたけうな》いをしていたが、つい忘れていると、其の翌晩又来て、何故《なぜ》剥して下さいませんというから、違《ちげ》えねえ、ツイ忘れやした、屹度|明日《あした》の晩剥がして置きやしょうと云ってそれから今朝畠へ出た序《ついで》に萩原様の裏手へ廻って見ると、裏の小窓に小さいお経の書いてある札が貼ってあるが、何《なに》してもこんな小さい所から這入ることは人間には出来る物ではねえが、予《かね》て聞いていたお嬢様が死んで、萩原様の所へ幽霊になって逢いに来るのがこれに相違ねえ、それじゃア二晩《ふたばん》来たのは幽霊だッたかと思うと、ぞっと身の毛がよだつ程怖くなった」
みね「あゝ、いやだよ、おふざけでないよ」
伴「今夜はよもや来《き》やアしめえと思っている所へ又来たア、今夜はおれが幽霊だと知っているから怖くッて口もきけず、膏汗《あぶらあせ》を流して固まっていて、おさえつけられるように苦しかった、そうすると未《ま》だ剥してお呉《く》んなさいませんねえ、何《ど》うしても剥しておくんなさいませんと、あなたまでお怨《うら》み申しますと、恐《おっ》かねえ顔をしたから、明日《あした》は屹度剥しますと云って帰《けえ》したんだ、それだのに手前《てめえ》に兎《と》や角《こ》う嫉妬《やきもち》をやかれちゃア詰らねえよ、己《おれ》は幽霊に怨みを受ける覚えはねえが、札を剥せば萩原様が喰殺《くいころ》されるか取殺《とりころ》されるに違《ちげ》えねえから、己はこゝを越してしまおうと思うよ」
みね「嘘をおつきよ、何《なん》ぼ何《なん》でも人を馬鹿にする、そんな事があるものかね」
伴「疑《うたぐ》るなら明日《あした》の晩|手前
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