、それは斯《こ》うでしょう、今年一ぱい貴方《あなた》のお側で剣術を習い、免許でも取るような腕に成る積りだろう、是《こ》れは然《そ》うなくてはならない、孝助殿の思うにはなんぼ自分が怜悧《りこう》でも器量があるにした処《ところ》が、少《すけ》なくも禄《ろく》のある所へ養子にくるのだから土産《みやげ》がなくてはおかしいと云うので、免許か目録の書付《かきつけ》を握って来る気だろう、それに違いない、あゝ感服、自分を卑下《ひげ》した所が偉いねえ」
孝「殿様、私《わたくし》は一寸《ちょっと》お屋敷へ帰って参ります」
相「行《ゆ》くのは御主用《ごしゅよう》だから仕方がないが、何もないが一寸《ちょっと》御膳を上げます少し待ってお呉れ、善藏まだか、長いのう、だが孝助殿、又|直《すぐ》に帰って来るだろうが主用だから来られないかも知れないから、一寸奥の六畳へ行って徳に逢ってやっておくれ、徳が今日はお白粉《しろい》を粧《つ》けて待っていたのだから、お前に逢わないと粧けたお白粉が徒《むだ》になってしまう」
飯「そう仰しゃると孝助が間《ま》をわるがります」
相「兎に角アレサどうか一寸逢わせて」
飯「孝助あゝ仰しゃるものだから一寸お嬢様にお目通りして参れ、まだ此方《こちら》へ来ない間《うち》は、手前は飯島の家来孝助だ、相川のお嬢様の所へ御病気見舞に行《ゆ》くのだ、何をうじ/\している、お嬢様の御病気を伺《うかゞ》って参れ」
 といわれ孝助は間を悪がってへい/\云っていると、
婆「此方《こちら》へどうぞ、御案内を致します」
 とお徳の部屋へ連れて来る。
孝「これはお嬢様長らく御不快の処《ところ》、御様子は如何様《いかゞさま》でございますか、お見舞を申し上げます」
婆「孝助様どうかお目を掛けられて下さいまし、お嬢様孝助様が入らっしゃいましたよ、アレマア真赤《まっか》に成って、今まで貴方《あなた》が御苦労をなすったお方じゃアありませんか、孝助様がお出《い》でに成ったらお怨《うらみ》を云うと仰しゃったに、唯《たゞ》真赤に成ってお尻で御挨拶なすってはいけません」
孝「お暇《いとま》を申します」
 と挨拶をして主人の所へ参り、
孝「一旦《いったん》御用を達《た》して、早く済みましたら又|上《あが》ります」
相「困ったねえ、暗くなったが何が有るかえ」
孝「何がとは」
相「何サ提灯《ちょうちん》があるかえ」
孝「
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