何となれば是れ取りも直さず」に二重丸傍点]、新たに支那中心説を唱ふるに同じければ也[#「新たに支那中心説を唱ふるに同じければ也」に二重丸傍点]。夫れ日本は、其地勢已に亞細亞大陸を離れて、太平洋心に近きが如く、其文明も蒙古人種の文明にあらず、東西南北の精英を集め、咀嚼、鍛練して、別に一個の文明を有す。若し亞細亞舊時の思想によりて、亞細亞總聯合を起さんとせば、中心は日本にあらず。最も能く之を代表するものは、即ち支那也。故に亞細亞説は即ち支那中心説とならざるを得ず[#「故に亞細亞説は即ち支那中心説とならざるを得ず」に丸傍点]。吾人は已に世界に於ける亞細亞中心説を排す[#「吾人は已に世界に於ける亞細亞中心説を排す」に丸傍点]。何ぞ况んや[#「何ぞ况んや」に丸傍点]、亞細亞に於ける支那中心説に甘心するを得ん耶[#「亞細亞に於ける支那中心説に甘心するを得ん耶」に丸傍点]。
吾人は歐羅巴中心説を排するが如く[#「吾人は歐羅巴中心説を排するが如く」に白丸傍点]、亞細亞中心説を排す[#「亞細亞中心説を排す」に白丸傍点]。吾人は浮薄なる歐洲論を排するが如く[#「吾人は浮薄なる歐洲論を排するが如く」に白丸傍点]、陰險にして卑屈なる亞細亞説を排す[#「陰險にして卑屈なる亞細亞説を排す」に白丸傍点]。吾人は日本を中心として[#「吾人は日本を中心として」に二重丸傍点]、直に世界の局面を打算すべきのみ[#「直に世界の局面を打算すべきのみ」に二重丸傍点]。吾人は已に世界の舞臺に上れり[#「吾人は已に世界の舞臺に上れり」に二重丸傍点]。宜く世界を相手として飛舞すべき也[#「宜く世界を相手として飛舞すべき也」に二重丸傍点]。
見よや、水天彷彿たる琉球臺灣の彼方よりは、混々たる暖潮、暖帶の生物を送り來り、北米の盡所、露領の極北より來る冽々たる寒流は、雪を作り霜を作りて、寒帶生物を養ふ。西南の風は齊魯の野より、風沙を薩南の地に送り、西北の風は大和の逸民を、北米の野に生ず。我自然の風物は[#「我自然の風物は」に白丸傍点]、天下の變化を集むるが如く[#「天下の變化を集むるが如く」に白丸傍点]、我文明も東西列國[#「我文明も東西列國」に白丸傍点]、文明の精英より成る[#「文明の精英より成る」に白丸傍点]。必しも[#「必しも」に白丸傍点]アリヤン[#「アリヤン」に傍線]と云ふ勿れ[#「と云ふ勿れ」に白丸傍点]、必しも[#「必しも」に白丸傍点]、ヘブルウ[#「ヘブルウ」に傍線]と云ふ勿れ[#「と云ふ勿れ」に白丸傍点]。必しも蒙古と云ふ勿れ[#「必しも蒙古と云ふ勿れ」に白丸傍点]、天下の文明は日本國民の爲めに消化せられ[#「天下の文明は日本國民の爲めに消化せられ」に白丸傍点]、鍛煉せられて[#「鍛煉せられて」に白丸傍点]、此に一個新奇の撰擇文明を生ぜんとす[#「此に一個新奇の撰擇文明を生ぜんとす」に白丸傍点]。吾人は感情に制せらるべからず。惰力に抵抗せざるべからず。吾人は明確の判斷、強固なる意志を以て言はざるべからず。吾人は親しむべくんば、人種、文明、地理上の區分を問はず、天下萬邦と袂を聯ねて周旋すべし。吾人は戰ふべくんば、また天下萬邦を敵とするも辭すべからず。敵にせよ[#「敵にせよ」に二重丸傍点]、味方にせよ[#「味方にせよ」に二重丸傍点]、戰鬪に於ても[#「戰鬪に於ても」に二重丸傍点]、文明に於ても[#「文明に於ても」に二重丸傍点]、漫に歴史[#「漫に歴史」に二重丸傍点]、人種[#「人種」に二重丸傍点]、地理の區分に迷ふて退縮し[#「地理の區分に迷ふて退縮し」に二重丸傍点]、『世界の日本[#「世界の日本」に二重丸傍点]』を縮めて[#「を縮めて」に二重丸傍点]、『亞細亞の日本[#「亞細亞の日本」に二重丸傍点]』たらしむべからず[#「たらしむべからず」に二重丸傍点]。吾人豈に的なきに漫りに矢を放たん耶[#「吾人豈に的なきに漫りに矢を放たん耶」に二重丸傍点]。當今の形勢により[#「當今の形勢により」に二重丸傍点]、戰後の民心を卜し[#「戰後の民心を卜し」に二重丸傍点]、切言するの已むべからざるものあれば也[#「切言するの已むべからざるものあれば也」に二重丸傍点]。
[#地付き](明治二十八年四月十三日「國民之友」)
底本:「明治文學全集 36 民友社文學集」筑摩書房
1970(昭和45)年4月30日初版第1刷発行
1983(昭和58)年10月1日初版第3刷発行
初出:「國民之友 第二百五十號」民友社
1895(明治28)年4月13日発行
※「アリヤン」の傍線と白丸傍点、「ヘブルウ」の傍線と傍線なしの混在は底本どおりです。
入力:kamille
校正:川山隆
2008年5月18日作成
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