まりましたが、見ると自分の足もとに車屋さんの長い鞭が落ちています。
「アッ。これはさっきの車屋さんのだ。私が走って行って返して来ましょう」
とヒョロ子は駈け出しそうにしますと、豚吉は引き止めました。
「チョット待て。何だかたいそういいにおいがする」
「ほんとにおいしいにおいがしますね」
「ああ、おれはあの臭《におい》をきいたので、お腹がすっかりすいちゃった」
「まあ。あなたは喰いしんぼうね」
「だって、ゆうべから何もたべないんだもの」
「あたしなんか何日御飯をたべなくとも何ともないわ」
「おれあ日に十ペン御飯をたべても構わない。ああ、御飯がたべたい」
「そんな大きな声を出すものじゃありませんよ」
とヒョロ子は真赤になって止めました。
けれども、豚吉は鼻をヒョコヒョコさせながら、あたりを見まわしながらなおなお大きな声で云いました。
「このにおいは、御飯のにおいと、葱《ねぎ》と豆腐のおみおつけの臭《におい》だが、一体どこから来るのだろう」
「そんな卑《いや》しいことを云うもんじゃありません。よその朝御飯ですから駄目ですよ」
「イヤ。あれを見ろ。あの森のかげにめしや[#「めしや」に傍点
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