「火事だろうか」
「煙が見えない」
「何だろう何だろう」
「行って見ろ行って見ろ」
 駈け出すものや、屋根に上るものなぞが、あとからあとから出来て、騒ぎはいよいよ大きくなるばかり。中には転んで踏み潰されたり、屋根から落ちて怪我をしたり、又はブツカリ合って喧嘩を初めるものなぞがあって恐ろしい有様になりました。
 そうなると警察もほっておくわけに行きませんので、ドンドン巡査を繰出します。消防も半鐘《はんしょう》をたたいたので、近くの町や村々の消防や蒸気ポンプがわれもわれもと駈け付けましたが、何しろ騒ぎが大きいのと、どこの往来も人で一パイなので近寄ることが出来ません。一所になって、
「静まれ静まれ」
 と叫ぶばかりなので、町中は引っくり返るような騒ぎです。
 こちらはヒョロ子です。豚吉を背負ったまま高い屋根の上に立って四方を見渡しますと、見渡す限りの往来も屋根もみんな人間ばかりで、警察や消防も出て来ているようです。どっちを向いても逃げようがありません。
「ああ、情ないことになった。おれたちが片輪に生れたばっかりに、こんな騒ぎになった。もうとても助からぬ。捕まったら殺されるに違いない」
 
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