よりも片輪でいた方がいいかも知れません」
 夫婦がこんなことを云っているところへ、表の方が大変騒がしくなりましたから、何事かと思って障子のすき間から夫婦でのぞいて見ますと、コハイカニ……表の通りは一パイの人で、みんな口々に、
「さっきこの家に走り込んだ珍らしい夫婦を見せろ見せろ」
 と怒鳴り散らしております。
 それをこの家《うち》の番頭さんが押し止めて、
「いけませんいけません。あれは私の家《うち》の大切なお客様ですから、私の方で勝手に見せるわけに参りません。もし見たいとお思いになるならば、私のうちにお泊り下さるよりほかに致し方ありません」
 と大きな声で云っております。
 往来の人々はそれを聞くと、
「そんならおれはここに待っていて、あの夫婦が出かけるのを待っている」
 というものと、
「おれはこの家に泊って、是非ともあの夫婦を見るんだ」
 というものと二つに別れましたが、泊る方の人々は、
「サア。番頭さん、泊めてくれろ。宿賃はいくらでも出す。ゼヒとも一ぺんあの珍らしい夫婦を見なければ――」
 と番頭さんに云いましたが、番頭さんは又手を振りました。
「いけませんいけません。あなた方
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