と》嘘を吐《つ》いて嘲弄《からか》ったのさ。態《ざま》を見ろヤイ」
と云いながら、親分の顔にプッと唾《つば》を吐きかけた。親分は「奴《おの》れ」と云い様《ざま》、小僧の胸を目がけて庖丁をグサと突き立てた。けれどもその胸は板のように固かった。ハッと驚いてよく見ると、庖丁は木の幹に突っ立っていて、小僧の姿はどこへ行ったかわからなかった。
「ヤーイ。馬鹿野郎。間抜け野郎。ここまでお出《い》で。甘酒進上」
と云う声が木の上からきこえて来た。それと一所に水がバラバラと降って来た。見ると小僧はいつの間にか木の上に駈け上って、三人に小便をしかけていた。三人は怒るまい事か、庖丁を口に啣《くわ》え、手《て》ん手《で》に木に登り初めたが、三人が小僧の傍まで来ると、小僧は又一段高い処に登って散々に悪態を吐《つ》いた。三人は益《ますます》憤《おこ》って、どこまでもと追いつめた。そしてとうとう一番|天辺《てっぺん》まで来ると、小僧は鳥のように隣りの木の枝へ飛び移って、スルスルと地面へ辷《すべ》り降りて砂原へ来て、十三人の子供を船に乗せて帆を揚げた。三人の悪者が木から降りた時は、船はもう沖の方へ出ていて、只《ただ》小僧の声ばかりが岸まで聞こえていた。
「馬鹿ヤーイ。態《ざま》を見ろヤーイ。小便引っかけられやがったヤーイ」
四
船が向う岸に着くと、小僧は十三人を船から卸《おろ》して、家はどこだと聞いて見ると、皆この国の都の貴《たっと》い人々の子供ばかりで、中にも一番小さい七つになる児《こ》は天子様のお世継ぎの太子様であった。或る日、十三人は揃って川遊びに行った途中、お伴の者の船にはぐれて悪者共に捕えられたのであった。小僧はそれでは都まで送ってやろうと約束すると、皆泣いて喜んだ。それから小僧は十三人を、一番小さい太子様から順々に一列に並べて、青い壺を胸の処に掛けさせて都の方へ出発した。そして口々に次のような歌を唄わせた。
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私達は都の子供
都合合せて十三人
生き肝取りにかどわかされて
手をば縛られ口ふさがれて
青い壺をば背に負わされて
歩け歩けと打ちたたかれて
野越え山越え悲しい旅路
泣いても泣いても声は出ぬ
船は帆揚げて潮越えて
砂の浜辺に座らせられて
胸を割《さ》かれてしまったならば
あとに残るは只生き肝と
肝を封じた青い壺
不思議の生命《い
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