》くかどうかわかりませんでした。
 けれども、思い切ってその端をしっかりと握って、湖の中に沈んでゆきました。
 湖の水が濁っているのは、ほんの上の方のすこしばかりでした。下の方はやはり水晶のように明るく透きとおって、キラキラと輝いておりました。
 その中にゆらめく水艸《みずくさ》の林の美しいこと……。ミミをふり返ってゆく魚の群の奇麗なこと……。
 けれどもミミは、ただ兄さんのルルのことばかり考えて、なおも底深く沈んでゆきました。
 そうすると、はるか底の方に湖の御殿が見え初めました。
 湖の御殿は、ありとあらゆる貴《たっと》い美しい石で出来ておりまして、真珠の屋根が林のようにいくらもいくらも並んでおりました。
 ミミは、その一番外側の、一番大きな御門の処まで来ますと、花の鎖を放して中へ這入って行きました。そうして、もしや兄さまがそこいらにいらっしゃりはしまいかと、ソッと呼んで見ました。
「ルル兄さま……」
 けれども、広い御殿のどこからも何の返事もありません。はるかにはるかに向うまで続いている銀の廊下が、ピカピカと光っているばかりです。
 ミミは悲しくなりました。
「兄さんはいらっしゃ
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