もしこの不況険悪の時勢に於て無用|不廉《ふれん》の事を起し一時の名聞《みょうもん》を求むるものとして一笑に附する人士が在ったならば、それは余りにも心なき人々として吾々は怨《うら》まざるを得ない。
世道日々に暗く、功利の争塵刻々に深き今日、その反動として地方郷土の名士、有志の清廉高潔なる人士が陸続として苔下に喚起され、天日下に表彰されつつ有るは誠に吾国人固有の美徳、純情の泥土化していない事を証するものとして意を強うするに足るものがある。這般《しゃはん》の事業の国民精神に影響する事の如何に深遠なるものがあるかを疑い得ない次第である。
況《いわ》んや、師恩の高大さを伝うるのは吾々門下の責務である。吾々が親しく翁より相伝した斯道の純志であり真面目である。その力及ばず。その能到らず。茲《ここ》に翁の霊前に叩頭して罪を謝し、大方の高助を得て翁の像を作り、蕪文を列ねて翁の伝を物し、翁の聖徳を涜《けが》す。ただこの高齢、高徳の士、不世出の国粋芸術家梅津只圓翁の真骨頂を世に伝えたい微衷に他ならない事を御諒恕賜わらば幸甚である。
尚、この『梅津只圓翁伝』を物するに当って各方面から有力な材料、話柄
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