、直ぐにその隣りの肉類の市場に暴れ込んで、鳥か獣《けもの》のブラ下がったのを片端《かたっぱし》から引き落して駈け抜けると、今度はその次の反物市場に躍り込み、絹や木綿を引き散らして窓や轅《ながえ》や方々に引っかけ、穀物の市場では米麦や穀類を滝のように浴び、瀬戸物市場では小鉢を滅茶滅茶に打ち壊《こ》わし、花市場の花を蹴散らし、魚市場の魚《うお》を跳ね飛ばして散々に暴れ散らした揚句《あげく》、今度は南の国へ通う広い往来を駈け下りました。
 その間幾人の人間を轢《ひ》きたおし、いくらの品物を打ち壊したかわかりませぬ。それでも狂うが上にも狂うた「瞬」の馬車はどうしても止まりませぬ。なおも足を宙に揚げて、死んでも止《とど》まらぬ勢いでどこまでもどこまでもと走りました。
 すると丁度晩方頃「瞬」の馬車が走って行く向うから、顔や身体《からだ》を襤褸《ぼろ》切れですっかり包んで眼ばかり出した香潮《かしお》が、白髪小僧の手を引いてやって来ました。雷のような音を立てて来る「瞬」の馬車を見て、慌てて白髪小僧を片傍《かたわき》へ引っぱって避けさせようとしましたが、彼《か》の時早くこの時遅く、大風のように近附いた
前へ 次へ
全222ページ中221ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
杉山 萠円 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング