藻は急にむっくりはね起きて、枕元の眠り薬の瓶を取るが早いか、又|室《へや》の窓から飛び出して、裏手の廏《うまや》へ来て馬丁を呼んで「瞬」を引き出させました。そうして怪我が急に痛くなったから青眼先生の処へ行くのだと云い捨てて、ヒラリと鞍に飛び乗るが早いか、裏門から一目散に逃げ出しました。

     十六 金剛石

 美留藻は紅矢の家を逃げ出しますと、先ず一番に仕立屋に行って着物を受け取りまして、賃《だちん》には一粒の大きな金剛石《ダイヤモンド》を投《ほう》り出して来ました。
 その次には帽子屋、その次には靴屋、その次には剣屋と、それぞれ尋ねてまわって、品物を受け取って、代金には皆宝石を一粒|宛《ずつ》、髪毛《かみのけ》の中から摘《つま》み出して与えましたが、それから都の大通りを驀然《まっしぐら》に南に走りますと、暫《しばら》くして向うから美留藻の脱《ぬ》け殻《がら》のお婆さんの着物を着て、喘《あえ》ぎ喘ぎ走って来る紅矢に出会いました。すると美留藻は乱暴にも、突然《いきなり》馬を紅矢に乗りかけて、逃げる間もなく踏み蹂《にじ》り蹴散らして、大怪我をさせてしまいました。そうして全く呼吸《いき
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