って遊ぶようになった。何の事はない、千束町の女は、醜業道の宣伝と奨励と講習のため、その筋の鞭に追われて、東京市内外の各所に派遣されたようなわけになった。

     何百何千の女の祟《たた》り

 記者は私娼公娼の廃絶論に満腔の敬意を払うものである。同時にその議論が事実上常に裏切られつつある事を悲しむものである。
 東京の千束町を只一ヶ所たたき潰したために、東京はその何層倍の呪いを受けている。この上吉原まで潰したらどんな事になるかわからない。
 宗教上、道徳上、社会政策上、又は単なる体裁上、私娼公娼の存在に反対する人々は大切な事を忘れている。女というものは殺すと化けて出るものである。況《ま》して、何百何千の無恥無教育の女の生業を奪うような事をしたら、どれ位祟られるかわからない。
 目的は要するに一般の風俗の改善である。この目的が達せられない限り、私娼公娼の絶滅論は考えものである。本《もと》を忘れて末《すえ》に走った議論である。或る一時の人気取りの議論であると云われても仕方があるまいと思われる。
 これは議論に対する議論でない。
 議論に対する事実である。
 東京人の堕落時代が明瞭に証拠
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