、彼女達の智識は、当然、男子と同様に心の自然を求め得る理由を発見した。
彼女達は皆、実際上か、又は空想上の「若い燕」たるべき相手を求めていた。
地震と智識階級婦人
彼等智識階級の婦人は、それでも永年の習慣で、そうそう思い切った事をし得なかった。筑紫の女王白蓮夫人? を初め、日向きむ子、神近市子、平塚明子、又は武者小路夫人などいう人々の、所謂合理的な行いを、彼女達は口先だけででも驚き呆れていた。彼女達は彼女達の自然(獣性)を彼女達の不自然(良心)の城廓に封じ込めていたのである。
ところへあの大震災である。
彼《か》の土煙と火煙は、彼女等の頭の中のこうした城廓を、かなり烈しく打ち壊した。これと同時に、夥しい「若い燕」が東京市中に孵化して飛びまわる事になった。
曠古《こうこ》の大震災はこのような人々を一様に単純化した。情熱化した。智識、見識、プライド、又はこれに伴う人格等のすべてを奪い去って、平等に本能の飢渇に陥れた。明日をも知れぬ運命を、引き続く余震で暗示した。彼等は、最も浅ましい事以外に、最も貴いことを認めなくなった。
しかもそれは一時の現象でなかった。
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