生れの親たちが、その子女から嫌われて、馬鹿にされている裡面には、こんな消息が潜んでいる。
 なおこのほかに今一つ重大なのがある。

     お乳から悲喜劇

 ついこの頃のこと……。
 九州方面のある有名な婦人科病院で、こんな悲喜劇があった。
 或る名士の若夫人が入院して初子《ういご》を生んだ。安産で、男子で、経過《ひだち》も良かったが、扨《さて》お乳を飲ませる段になると、若夫人が拒絶した。
「妾《あたし》は社交や何かで、これから益《ますます》忙しくなるのです。とても哺乳の時間なぞはありません」
 というのが理由であった。付添《つきそい》や看護婦は驚いた。慌てて御主人に電話をかけた。
 やって来た御主人は言葉を尽して愛児のために夫人を説いた。しかし夫人は受け入れなかった。頑固に胸を押えた。
 御主人は非常に立腹した。
 そんな不心得な奴は離縁すると云い棄てて帰った。
 夫人は切羽詰まって泣き出した。大変に熱が高まった。
 付添と看護婦はいよいよ驚いて、一生懸命になって夫人を説き伏せた。夫人が泣く泣く愛児を懐に抱くのを見届けて、又御主人に電話をかけた。
「奥様が坊ちゃまにお乳をお上げに
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