ぺらで毒々しいかは前に述べた。そのケバケバしい色や形の中に住む人間は、互に負けないようにケバケバしくするか、又は反対に陰気にジミにするかしなければ引っ立たない。
 新東京の新東京人の中で、男は後の方法を取った。中流社会の着物道楽の項で述べたように、現在の東京で最もハイカラな男といえば、最もジミな青白い服装をした男である。
 一方に、女がこれと反対の流行を作ったのは止むを得ないところであろう。彼女達の服装は弥《いや》が上にも派手に突飛《とっぴ》になって行った。
 芝居の書割りよりも、もっと自由に奔放な形式を使っているバラック建築のデコレーションに調和すべく、彼女達職業婦人は舞台化粧以上に白く塗らなければならなかった。唇を血のように染めなければならなかった。頬をダリヤのように赤く隈取らなければならなかった。思い切って大きな飾りを活躍せしむべく、頭髪の舞台面をどこまでも拡大しなければならなかった。着物の柄は調和を破る位に極端な取り合わせを用いなければ引っ立たなかった。それは趣味の低い彼女たちにもよく理解される趣味であった。

     バラック都市の夜の光線と処女達の美

 彼女達職業婦人が真面目な仕事をする時間は大抵昼間である。したがって、彼女達がその持ち前の美を自由に発揮する時は夜である。
 然るにバラック都市の夜の光線は、水蒸気の多い日本の昼間の光線がすべてをドス暗くみじめにすると正反対に、華やかである。だから彼女たちの姿が、夜の光りに調和すべく、仰山に毒々しくなって行くのは止むを得ないであろう。
 その真似をして真昼間の平和な町をあるく九州地方の婦人の姿が、如何に不気味に阿呆らしいかは皆さん御承知のところであろう。
 神田の或る美容術師はこんなことを云った。
「田舎へのお土産に東京の最新式の髪をという意味の御注文がよくあります。しかし東京式の結い方はあまりお上品向きでありませんから、お客様のお姿や服装から御家庭をお察しして、苦心しいしい調和よく結って差し上げますと、どうも御気に召しません。反対に職業婦人風にして差し上げますと、一も二もなくお喜びになります。すべてお髪《ぐし》は御家庭や、御職業や、又はそのお帰りになるお国の風土によって違います。外国でも気の利いたお方は、御旅行先や御転居先の風俗をよく研究されて、これに調和されて行きます。お料理なぞと些《すこ》しも違い
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