を嘗《かつ》て見た最大の頭よりも見栄《みばえ》あらしめるために、一袋十銭のスキ毛を一ツ宛《ずつ》突込んで、遂に三十四十に及んだまでの事である。列強の大艦巨砲競争と似たような原因結果である事は疑われぬ。只、これを制限する華盛頓《ワシントン》会議がない代りに、讃美する新東京人があるだけ違う。だから彼女たちの頭の大きさの競争が、斃《たお》れて後《のち》止《や》むところまで行く。

     丸ビル式と銀座髷

 流石《さすが》に福岡あたりを歩いている新式の髷には、東京の職業婦人のそれのように非常識者なのは無い。これは、福岡の婦人に東京のような意味の職業婦人が少い、従って自己見せ付けの競争が東京程烈しく行われないからであるらしい。
 しかしこの競争もある程度まで行くと、行き詰まりになるのは止むを得ない。そこで今度は恰好の競争が始まる。
 その頭の恰好にも又いろいろある。記者が見たり聴いたりしただけでも新旧百幾通りもある。皆新聞や雑誌で宣伝されているから略するが、その中《うち》で有名な丸ビル式と銀座髷というのについて一寸《ちょっと》説明を加えておく。
 丸ビルというのは東京で丸の内ビルディングの事、銀座は同じく目抜の通りと云ったら笑われるかも知れぬ。それ程|左様《さよう》に有名な建築や町の名を髷に戴いているわけは、その建築や町に出入りする職業婦人に新しい意味の職業婦人が多い証拠である。職業婦人たちが人気と注目の焦点となっている結果である。

     第二職業広告用の理髪

 彼女達職業婦人のグループはこうしたわけで派手を競うた。そうして、その背景や職業に依って服装が違って来ると同時に、頭もこれに釣り合って変化して来た。すなわち背景と職業が似通っているために、その服装から次の恰好にまで共通点が出来て来る。丸ビル式や銀座髷はこうして出来た。
 丸ビルの方は、丸ビルそのものはもとより、付近の背景が皆ガッシリした大建築ばかりで、そこに出入りをする職業婦人は大抵事務員式のスタイルであった。
 銀座の方は大部分バラック式の派手やかなもので、職業婦人といえば大部分飲食に関係ある店の女給である。
 そうした空気の中からこんな髷が生れたのか、それとも或る一人がその特徴から工夫し出して全体に広めたものか、その辺は判然せぬ。いずれにしてもこのような背景や職業に……そうしてその第二の職業の広告に最
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