見本を出そうかと思ったが、前の少女のラブレターと違ってなかなか手に入り悪《にく》かったのと、判で押したように空《から》お世辞の千篇一律だったから止した。
 要するに普通の色文《いろぶみ》だと、こちらがのぼせ[#「のぼせ」に傍点]ているから、初めから無暗《むやみ》にセンチメンタルな事ばかり書く。一方に相手の方は惚れても何もいないのだから、あまり感服しない。
 これに反して、不良少年の文《ふみ》の上乗《じょうじょう》なのになると極めて冷静である。相手に依って美文的に、又は哲学的に辻褄を合わせて書いてある。相手の得意なもの、又は姿の特徴なぞは、抜け目なく巧みに賞めてある。万事が向う本意で、こちらを出来るだけ謙遜して、お上品ずくめである。尤も新しがりの色気たっぷりな相手らしいのは、初めから思い切り甘ったるく持ちかけてある。
 不良が最も困るのは手紙に書く所番地である。無暗《むやみ》に改めると相手が信用しなくなるし、改めなければ危険が伴う。そのほか色んな面倒がある上に、能率も上らない。だから腕に覚えのある奴は直接法で行くか、又は両方を用いて行く。

     直接の誘惑法

 直接の方法というのは、ザッとこんなやり方である。
 眼星をつけた少女の学校の往復、外出の道筋なぞを狙って一緒の電車に乗り込む。少女《スター》に近付いて前に立つ。
 それから機会を作って話しかけ、足を踏んであやまる式もあれば、吊り皮を譲る式もある。狎《な》れた奴になると、初めからピッタリと寄り添って、肘で乳を押し上げ押し上げしながら相手の反応を見る。これは近頃のダンス流行から出たヤリ口だそうな。しかも、ダンスの奥許しの秘伝を電車の中で応用するのだから適わない。
 相手が腰をかけていれば、こっちの膝で向うの膝を小突く。程よいところでニッコリして見せる。これに相手が応ずればもう成功だそうな。
 そんな安っぽい女の子があるものかと云う人があったらば、前の「若い女性の享楽気分」の章を今一度読み直して頂きたい。
 勿論、不良の方も第一回で成功しようとは思わぬ。根強くこれを繰返して、いよいよ言葉を交わす段取りになると、又の逢う瀬を約束する。あとは大抵きまり切っている。仲間同志で散々オモチャにしたあとを、ユスリの種に使うのである。以上はほんの一例で、まだこのほかにどれ位交際の機会があるかわからぬ事は、既に東京の年中行事
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