青い派手な鳥打帽と、黒のジミな中折れ帽が腰をかけていた。黒の中折れは何か気味悪そうに青い鳥打の話をきいていた。二人共まだ若かった。
記者はその横に腰をかけて、懐中からノートを出して何やら書いていた。
青い鳥打帽が二三度話をやめて記者をジッと見ていたが、突然声をかけた。
「オイ、オトッツァン。済まないが退《ど》いてくんないか。こちらの話の邪魔になるから」
記者はドキンとして顔をツルリと撫でた……風邪が抜けないので鬚蓬々《ひげぼうぼう》としていた。次に帽子を冠り直した……古ぼけた茶の中折れであった。おとっつぁんと呼ばれても文句は云えなかった。
記者は眼をパチパチした。
何だか可笑《おか》しくなりながら、相手の鳥打帽の下にキラキラ光る二つの眼を見た。虚勢を張っていたせいか、その光りがだんだん怖くなった。記者は静かに帽子を脱いで、わざと福岡弁で云った。
「共同椅子だすけん……よござっしょうもん」
鳥打は意味がわかったらしく、青い顔をサッと青くしたようであった。黒い中折れをふり返って云った。
「君はいいから行き給え」
黒い中折れはペコペコお辞儀をして去った。あとを見送った青い鳥打は記者の方を向いた。
「おめえ、東京初めてか」
「……ヘエ……」
「こっちへ来い」
記者は随《つ》いて行った。
鳥打帽は馬道へ出た。交番の前で又記者をふり返ってギョロリと見た……それからがよくわからないが、焼け木の積んである横路地を二つ三つ抜けて、夕顔を絡ませた新しい板塀にぶつかった。その横の切り戸を開いて、又、横路地のような処をすこし行くと、長屋式の板壁の途中に小格子がたった一つあった。そこを開くとすぐ狭い梯子段で、それを上って洋式のドアーを開くと……。
意外にも立派なカフェーの二階に出た。前はどこか知らぬがかなり賑やかな通りである。
鳥打はインバネスを脱いで、帽子と一緒に壁にかけた。記者もその真似をした。
二人は卓子《テーブル》を隔てて差向った。
擬《まが》い大島を着た二十ばかりの美青年である。「案外若い」と記者は心の中で驚いた。
何も云わぬのに美しい女給が珈琲を二ツ持って来た。
青年は飲んだ。
記者は飲まずに云った。
「何か御用で……」
青年は飲みさした茶碗をしずかに置いた。片手を懐にして肩を聳《そび》やかした。
「先刻《さっき》のノートを出し給え」
記者は又
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