さそうな異性の家ならば、その内情や生活振り、家の構造、近所との関係なぞを、その家の主人よりもよく知るようになる。
 警察や憲兵署員の顔と名前、性質等は特に大切である。交番の所在はもとより、抜け路地や飲食店の案内、眼じるしになる家とか木や石の形まで、必要に応じて記憶して、抜け目なく利用し得るようになる。
 警官達を親友みたようにしているのも居る。手先になっているのも居るらしい。

     世間が馬鹿に見える

 不良学の中で最も六ヶ《むずか》しく、面白いのは、他人の心理を見抜く術と、その隙《すき》に乗ずる呼吸である。これは普通の世渡りにも必要なものであるが、不良の方の術と呼吸は世間並の裏を行くのだから六ヶ《むずか》しい。
 人間の心理を、大人と子供、男と女、又は職や生活に依って区別して、あらかたこんなものと飲み込んでいるばかりでない。その場の調子に依って自分の心理状態までも一瞬間にかえてしまって、相手の気持ちに吸付いたり、又は薄トボケて捕まり損ったりする術と呼吸の必要は、不良生活の到る処に出て来る。理想的に云えば実世間の名優でなければならぬ。
 この辺まで研究が積むと、人間が皆馬鹿に見えて、面白くてたまらない。講談本や探偵小説にある巨盗怪賊の忍術は、こんな事を云ったものかと思われると吹き立てる不良さえある。無論当てにはならないが……。
 現代の教育には、この人間学の一科目が欠けているため、学生は皆、学校を出てからポツポツ研究に取りかからねばならぬ。それは不良は早くから裏面的に研究して、ドシドシ実際に応用している。世間見ずの令息令嬢が引っかかるのも無理はない。
 ところで、そんな人間学の先輩――不良学のお手本が日本一に集中しているのは東京である。

     場所に依って違う不良の種類《たち》

 東京の不良は場所に依ってタチが違うようである。土質に依って植える草が違うのと同じわけであろう。
 浅草は主として脅迫や誘拐で、千住方面は相も変らず遊廓や魔窟相手のゴロが多い。神田、本郷、早稲田方面は書物泥棒や下宿屋荒し、麹町、青山、牛込、渋谷あたりへかけては誘拐や色魔式が横行する。又、下町一帯は万引やカフェーゴロの仕事場で、山の手は色魔や詐欺の本場と云ってよかろう。東京市外となるとそんなのがゴッチャで、しかも盛《さかん》に行われる。飲み逃げや喰い逃げは無論全部共通である。

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