その中でも腰弁たちは、身なりだけはなかなか立派なのが多いが、その割りに安物を漁《あさ》るので、扨《さて》こそ彼等を当て込んだ「うまい」「安い」という文化的? な看板がこの辺に殖えたのである。
 とにもかくにも、日本の中心の、その又中心の丸の内で仕事をする人達が、こうした安物で養われていることは、「東京の裏面」に現われた興味ある現象と云ってよかろう。
 銀座に来ると模様がガラリと違う。
 地震前から持ち越しの永久的大鉄筋の間に、半永久的の上等なバラックが犇《ひしめ》き並んで、見様《みよう》によっては昔の銀座よりも美しくて変化がある。何しろ日本目抜の商店が、「サア来い。数年後にはブチ壊すにしても、そんな粗末なものは作らないぞ」と腕まくりをして並んでいるのだから無理もない。ちょっと見るとこれがバラックかと思われるようなのもあって、新開地式の安ッポイ気分があまり流れていない。
 裏通りも同様で、表通りよりは新開地式であるが、それでも丸の内のソレより数等上である。今春あたりから粋な横町辺に並んだ格子先には、昔にかわらぬ打水に盛塩《もりじお》の気分がチョイチョイ出ている。
 京橋を渡りすこし宛《ず
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