けて行って、勝手につまみ喰いやお毒見をするのを禁ぜよ、と云うのである。
 東京市という一家の家令たる市長が知らぬ間に、台所で議員と吏員がうなずき合って、すき勝手に献立てを作って、ドシドシつまみ喰いをしたり、折に詰めて持って帰ったりする。東京市の真実の主人たる市民は、そのお流れを頂戴するために高い税金を払っているということになる。これが自治制という者ならば、世の中に自治制位阿呆らしいものはないことになるのである。
 この自治制のうま味を占めた市会議員連は、こうして「復旧」という御馳走や、「復興」という二の膳に満載してある御馳走がたべたくてたまらなくなった。
 いくらたべてもずんずん消化して尽きるところを知らぬ御馳走が、彼等の眼の前に山積している。真に千載一遇である。百年に一度位しか行き当らぬ宝の山にぶつかったのである。意地にも我慢にも辛棒が出来るものでない。そこで色々魂胆をしぼったあげく、始終台所に眼を光らしている前の市長を逐い出して、片っ方の眼のつぶれた豪傑を市長に、又は、部下の風紀取締になると公言して待合に入りびたる今業平《いまなりひら》を電気局長に引っぱり込んだ。
 しかしそうとも
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