る処に出来合いの夫婦関係が成立したもので、その当座世間がザワザワしているうちは、そのまま一所に生活や何かの問題に紛れて関係が続いて来た。ところが翌年の春となって、世間が落ち付いて、お互の間の緊張味がなくなって来ると、今更にお互の顔が見合わされて来た。アラが見えたり、イヤになったり、その他経済上の問題や夫の不品行なぞが問題になったりして、方々で別れ話が持ち上り始めた。
 この議論はチト乱暴であるが、元来が出来心の関係だから、花時になって急に合せ物の離れ物気分になったのも無理はないと云えば云える。
 さてこの夫婦別れの人事相談でも、よく観察するといろんな筋道があって、東京市民――もしくは現代人の生活の裏面の或る物を暗示している。
 先ず夫に別れたいという相談を持って来るのは、大抵学問や理性の備わっている人が多い。つまり夫婦になろうという時の気持ちは、学問や理性を超越した気持ちになっている時であるが、すこし落ち付いて来ると、その学問や理性が頭を持ち上げていろんな事を考えさせる。そうして別れ話を持ち上げさせるという順序で、彼等の身の上相談を聴いて見るとこの消息がよくわかる。現代の婦人がその得手
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