仮りに或る一文無しが百円の金を儲けたとする。
その中から二十円を奮発して芝居見に行く事になったとする。
これを聞いた人々が、
「ソレは身分不相応だ……ブル思想だ……二十円の金で何十人の飢が凌《しの》がれると思う……血も涙も無い奴だ……第一百円の金を儲けるのが不都合だ……大方泥棒でもしたんだろう……元来金というものはソンナに一人占めにすべきものではないのだ……ソレを自分の物のように心得て、事もあろうに芝居見に行くとは非国民の行為だ……国賊の所業だ……民衆の敵とは貴様の事だ……行くなら行って見い……打ち殺してくれるから」
と罵《ののし》ったらどうであろう。
罵しられた方は当り前の人間で、罵った方が馬鹿か気違いにきまっている。そうでなかったら、お金欲しさに血迷った奴である。こんなのがお金に有り付いたら、二割や三割どころでない、十割以上も飲み喰いして足を出す輩《やから》である。ブル以上のブル根性を発揮する連中である。だから平生貧乏しているのだと冷かされても仕方があるまい。
ところが事実はこれを裏切った。天下の富豪大倉喜八郎氏が百何十万円とかを投じて賀筵《がえん》を張る。そのために支那
前へ
次へ
全191ページ中145ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
杉山 萠円 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング