車がどんな風に人の神経をゆすぶっているかということは、「東京の裡面」を作る「東京人のあたま」を理解する上に就いて、バラックと同様の価値があるのである。

     全市が親知らず

 東京市当局の言明を聞いて見ると、電車は目下が極度の増発で、この上|殖《ふ》やせば到る処の停留所に電車の行列が出来るばかり――否、現在でもその傾きがあって困るとの事。こうなると、あとは地下線と高架線よりほかに抜け道がないとは、一般の所謂識者の観察である。
 何だか知らないが、こむ[#「こむ」に傍点]ことこむ[#「こむ」に傍点]こと。
「須田町は花の都の親知らず」
 と云うが、今ではその親知らずが東京中に拡がって、とても女子供や老人と構ってはいられない。生存競争とか優勝劣敗とか、適者生存とかいう学問上の言葉を、一番手っ取り早く説明するのは電車の昇降であるが、それにしても東京のはあまり極端である。そのせいか、この頃出来た新しい車台は、車掌と運転手の居る処を交通遮断している。そうでもしなければ運転不能に陥るかも知れない。
 そんならば空いた電車は一つも無いかというと、そうでもない。非常に混んでいる反対側の線は、大
前へ 次へ
全191ページ中109ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
杉山 萠円 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング