付いた壁土であらん限りの模様を工夫して、屋根の形や柱の恰好までも変化を与えている。
 特別に変ったのでは、青黒いセメントで陰気な牢獄のような四角い家を作り、前にタッタ一ツ孤光燈を燭《とも》している(水銀燈ではなかったとも思う)のがある。
 亜剌比亜《アラビア》式の平べったい煉瓦積み(煉瓦は板壁にペンキで描いたもの)に、カーキー色と赤のダンダラの日除けを張りまわしているのがある。
 復興《ルネサンス》式に支那式の色硝子の窓をはめて済ましているかと思うと、小学校のような平凡な家に北欧式の急傾斜な屋根を乗っけている……その近所に露西亜《ロシア》式の旧教会のような丸屋根がある……洋館に破風作りがある……と思うと、南米やアルプスあたりの絵はがきにある丸木小屋をわざわざこしらえたのもあるといったような始末……で、一面から見れば世界各国の建築様式の掃き集めと云ってよい。
 ショーウインドや内部の模様はあまり管々《くだくだ》しくなるから略するが、要するに外観と同様変化自在で、その大部分は俗悪な壁紙、色ペンキ、又はケバケバしいカアテンや鏡の応用であることは云う迄もない。
 東京人は、その家が地震で潰れて
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