米国人は日本人を獣《けもの》扱いにした……そんな獣の眼まで診察してやる義務はない……と。今に親米になったらどうするだろうと思うが、そんな事は構わない。目下の人気さえ取れればというつもりらしい。

     「商品の民衆化」とは

 今一つ、記者の「眼」を驚かした眼のお医者がある。銀座尾張町の四辻で電車を待っていたら、袢纏《はんてん》着の男がビラを一枚|呉《く》れた。活動の引き札かと思ったら大違い。
「あなたの眼は健康ですか。文明社会の生活では眼ほど大切なものはありませぬ。眼の良し悪しは直《すぐ》に一身の安危になるのですから、不断の注意を怠ってはなりません。おわかりになりましたならば、○○ビルディング何号医学博士の診察所へいらっしゃい。何曜と何曜は診察無料です」
 という意味で、福岡市のお医者様でこんな事をやったら、忽ち仲間外れにされそうな広告である。
 人格と徳義を最も大切にするお医者様の、しかも何々博士と銘打った人までがこうした最新式の営業振りを見せる程、震災後の東京の商売は発達しているのだから、他は推して知るべしである。勿論、蒸溜水を注射して十円取るのと違って、国家に貢献する事は大であるが。しかもこういった式がバラック以来の流行である事は間違いない。先年、京都で或るお医者様がビラを配って大問題になった事を考えると、隔世の感があるのである。
 特に九大を有する福岡市のために書き添えておく。
 次に御紹介をしておきたいのは、「商品名懸賞募集」と「価格懸賞投票」という二つの広告法である。この方面の智識に暗い記者は未だ福岡市でこの種のものを見た事がないから、バラック式の一例として挙げたのであるが、珍らしくなかったら御免なさい。
 商品名募集というのは、鼻紙とか鉛筆とかいうものの新製品を、繁華な往来に並べて価格を付けておく。買いたい人は買うのであるが、その紙なら紙が上等なわりに価格が安いのに、何という紙か名前が付いていない。
 その側に大きな看板を立て、
「名前をつけて下さい
   (商品の民衆化)
 皆様の文化的要求に応じて
   新しく生れたこの紙に……」
 と大書して、締切り期日や審査員の文士? の名前となにがしかの懸賞金額が赤丸付きで発表してある。その傍《かたわら》には鉛筆五六本と紙と投票箱が置いてある。
 こうして一月ばかりして開票されると、投票数が何千何百人、
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