崇拝者より”としてあるから、僕はてっきり僕の崇拝者が僕を呼んでいるんだと思った。このことは、はっきり分かるだろう、え」
「だって……」
「だっても何もないよ。僕の崇拝者でもないくせに、なぜ僕宛に“あなたの崇拝者より”なんて書いて寄越すんだい」
「あたくしは、あなた様も大いに崇拝いたしておりますわ」
「えっ、それはややこしいね」
「――だってあなたさまは愛する水戸の唯一無二の親友でいらっしゃいますものね」
「たははは……」
 ドレゴはここで完全にエミリーから引導《いんどう》を渡されてしまった。彼はまといつくエミリーを汗だくだくで振り切って、すたこら自分の邸へ逃げ帰った。
 もちろん彼はそれからバッカスの俘囚《ふしゅう》となって、前後を忘却するほどの泥酔に陥った、が翌朝早く彼は自分の寝台にぱっと目を覚ました。そんなに早く彼が酔後の熟眠から目覚めることは従来の習慣上なかったのであるが、その朝は不思議に目がぱっちりと開いた。何者かが、彼の本性に警報を発したからに違いない。
 彼は起き上がって暖炉の前に腰を下ろすと、下紐を引いて人を呼んだ。
 ガロ爺やは坊ちゃま御帰邸のよろこびを懸命に怺《こら》
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