のワーナー博士は、愛用のパイプから紫煙をゆるやかにくゆらせていた。博士は、ちょっと首を左右にふり向けて室内を見渡した。この部屋にいる者の顔色を打診したのであろう。博士の表情が少し硬くなった。彼はパイプを握った方の手をあげて、部下達の方へふり向いた。
「われわれはもう危機を脱した。心配することはない。あと五分で、みんな配置から解放される。――記録だけは大切に保管して置くのだよ」
博士のこの言葉に、期せずして一同の口から大きな溜息がとび出した。が、誰もまとまった言葉をいう者がなく、聞こえたのは呪いの声だけであった。
真先にワーナー博士のところに近づいたのはホーテンスだった。続いて水戸がドレゴの腕を押しながら、それに加わった。
「団長、ありゃ何です。今のあのすごい爆発はどうして起こったのですか、あの駆逐艦の失態ですか、それとも――それとも異常海底地震の禍いですか、まさかそうではないでしょう、では何とあれを説明しますか」
平常のホーテンス記者の冷静がどこかへ隠れてしまっている、彼は大きく喘《あえ》ぎながら博士の前に迫った。
「さあ、今は分からないという外あるまいね」と博士は首を左右に振った、「だがたいへん幸運な収穫だ、われわれは、第二の怪事件を、自分の目で一伍一什《いちごいちじゅう》はっきりと観察することが出来たんだ」
「それはそうです。しかし博士あの爆発事件について、どういう感想を持たれますか。例えばあの事件とゼムリヤ号の間にどんな関係があると考えられます」
ホーテンスは猟犬のように迫った。
「それは興味ある問題だ」博士は肯いた。
「それがはっきり分かるときは、ゼムリヤ号事件も先刻の事件も共に解けるだろう。が、わしの手許には、まだこの問題を解くべき何の因子も集まっていない。むしろ……そうだ、むしろ君がたの意見を聞いて参考にしたいくらいだ」
博士は、あべこべに問題をホーテンスの方へ押しやった。
ホーテンスは、うむと呻《うな》った。それから彼は数秒間咽喉を鳴らしていたが、やっと決心を固めたという風で、口を開いた。
「僕の感じたところでは、さっきの駆逐艦爆発事件はゼムリヤ号事件よりもっと楽に解ける事件じゃないですか。僕の見たところで、まさか、さっきの事件は明らかに原子爆弾の攻撃によるものだと思いますよ。艦体が海面からもちあげられ、そして火焔に包まれ、それから煙のよう
前へ
次へ
全92ページ中34ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
丘 丘十郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング