から、そういった。
「ほう。でも、われわれは自分の身体に地震を感じませんでしたがね」
水戸が早口に言葉を挿んだ。
「もちろん計器の上に感じた地震だ。すごい伝播速度のものだ。秒速二千四百キロメートルを観測したよ」
「なるほど、普通の地震の場合の三十倍以上の高速ですね」
「ふうん、君は勉強しているね」と博士は水戸の顔を見直していった。
「伝播速度だけの異常ではない。その他、波動法則にも普通の地震に見られない異常性が認められる。殊に合点のいかないのは、それに続くべき余震らしいものが発見できないことだ。もっとも、もっと時刻が経って起こるのかも知れないが、それにしても、もう相当時間が経っているんだから変だ」
ワーナー博士は、自ら観測した結果について、休みなく語り続け、博士の指にある煙草が幾度となく消えたが、水戸はその度に、ライターを摺《す》った。
「で、地震は今どうなっているのですか」
ホーテンスが訊いた。
「今ちょっと落着き状態にある。とにかく敏感な計器は皆針を飛ばしたりなんかしたので、この間に次の観測の準備をしなければならない」
博士は、研究員たちの忙しそうな姿へ目をやった。
その後にも引き続いて起こるかと思われた海底地震が、予想を裏切って一向に起こらなかった。また余震が全然観測されなかった。
「変だね、あれだけの顕著な地震に余震がないなんて……」
と水戸は呟いた。
「余震がないということはそんなに怪しむことかね」
ドレゴがパイプを口からもぎ取って、目を剥《む》いた。
「そうだろう。地震には余震が付きものなんだから……」
「そうかね。僕には、ぴんと来ないがねえ。何かもっと目に見える派手な事件でも、起こって呉《く》れなくちゃ、僕には異常現象たることが諒解できない。ああ、とにかく草臥《くたび》れたよ。外へ出て、冷い潮風に当たって来ようや。君もちょっと出ないか」
ドレゴが誘ったので、水戸記者もそれに応じて、この無電室を出た。
縹渺《ひょうびょう》たる大西洋は、けろりんかんとしていた。どこに海底地震があったという風だった。
「護衛艦たちは、いやに遠くへ離れちまったねえ、水戸君」
「うん、観測の邪魔にならないように、本船の間に相当の距離を置いたんだろう」
「そうかなあ。あれは駆逐艦らしいが、いい格好だねえ。おや、どうしたッ。変だぞ、あの艦は……」
ドレゴの声が驚
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